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社会貢献|イベント|SDGs
2025/02/07
2025年1月16日(木)、17日(金)の二日間にわたり、APUキャンパスにて、学生団体「難民という言葉のない世界を創る」による「難民写真展」が開催されました。「難民という言葉のない世界を創る」は、サステイナビリティ観光学部の上原優子准教授のゼミ生を中心に、2018年に結成されました。以来、毎年APUキャンパス内外で難民写真展を開催し、複雑な要素が絡み合った難民問題について多くの人と一緒に考える場となることを目的に、継続的に活動を行ってきました。また、今年度の写真展は「別府市制100周年記念事業」として、別府市との共催で開催しました。
写真展では、2023年10月に勃発したイスラエルとハマスの武力衝突、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻に関わる写真を中心に41点が展示され、それぞれの地域で難民が発生した歴史的背景をまとめたポスターや、各写真の解説も掲示されました。会場では、海外の難民問題のみではなく、日本で暮らす難民の方々、それを受け入れる方々を撮影した記録映像なども放映され、問題を身近に感じさせる展示も見られました。
会期中には難民支援協会の代表理事である石川えり氏の講演会が行われました。これは別府市の申請により、(一財)自治体国際化協会が実施する地域国際化推進アドバイザー派遣制度を利用したものです。難民支援協会は、世界中から日本に逃れてきた難民一人ひとりが、人権を取り戻すことができるよう支援する活動を行っています。石川氏は、人がどのように難民となってしまうのかを近年の国際情勢を例に説明し、難民とは、私たちと同じように普通の暮らしを送っていた人が、自国での危機的な状況から逃れてきたやむを得ない結果であるということを、私たち一人ひとりが認識する必要があると述べました。
講演会では、世界の難民は2024年5月時点で過去最多の1億2000万人と深刻な問題となっているなか、日本は難民認定基準が非常に厳しいと言われており、2023年時点では認定率がG7で群を抜いて低い3.8%であるというデータが提示されました。日本で認定が認められにくい理由としては、日本の制度では難民認定機関の独立性が低い点、難民申請に対する決定をくだす際、危険性に関わる日本の解釈が他国に比べて厳しい点、出入国と在留を管理する出入国在留管理庁が審査を実施するため、難民の保護よりも管理が強まる傾向にあり、救済につながりにくい点などが挙げられました。石川氏は、難民支援協会が行うのは、日本の制度や仕組みのなかで難民が生き延びるための支援や、難民への理解と共感が社会に広がるための働きかけなどであり、民間でできることは多くあるが、本来の難民支援である、逃れてきた難民の命を守り、基本的な人権を回復することや最低限の生活を保障することは、政府の主導によって行われるべきものだと強調しました。
最後に、この課題にむけて学生や一般の人ができることとして、難民の方からのレシピメニューを大学学食で提供する取り組み「Meal for Refugees」や、SNSで問題に関する情報を拡散することなどが紹介されました。質疑応答では、ドイツの難民受け入れの事情などが尋ねられ、石川氏は、経済学的には、難民を受け入れることと適切な投資(語学教育と職業訓練)が同時にされた場合、長期的にはプラスとなることが明らかになっているという例を紹介しました。
そのほか、会期中に「難民という言葉のない世界を創る」により開催された体験型のワークショップでは、ドイツにおけるホロコーストに焦点が当てられ、悲劇が起きてしまった理由が考察されました。参加者たちは、当事者たちの抱えた痛みを紐解きながら、我々が二度と同じ悲劇をおこさぬための鍵が、杉原千畝氏のような「他者をいつくしむ心」にあり、それは本来誰の心にも存在するのでは、という希望を語り合いました。
写真展への来場者には、毎年欠かさず訪れているという別府市民の方がいらしたり、「写真に写る方が自分の家族だったらと思うと、胸が張り裂けそうになった」という学生の声が寄せられたりするなど、写真展が多くの人に難民について深く考える機会となったことが浮き彫りになりました。
ご来場いただいた方々から、『友人の国の状況を知り、心が痛んだ。』『実際に写真を見ることで、胸に響くものがあった。』といった感想を多くいただきました。みなさんが難民問題について深く考える様子がうかがえ、大変うれしく思います。今回の難民写真展が、難民問題を少しでも多くの方と考えられる機会となりましたら幸いです。
2024年は、世界各地でリーダーの交代など、予測不能な変化が数多く起きた年でした。2025年も、変化の連続が待ち受けているのかもしれません。しかし、私たちは、変化の中に希望を見出し、出来事の呼びかける意味を問い続け、難民という言葉のない世界の実現に向けて挑戦し続けてゆきます。