2018年度 科学研究費助成事業による研究 No.6

研究課題:一帯一路構想に対する中国周辺国の戦略的対応に関する比較研究

研究代表者:吉松 秀孝

研究内容

本研究は、中国周辺地域の中心国であるインドネシア、インド、カザフスタンが、中国の国家プロジェクトである一帯一路構想に対して採用してきたヘッジ戦略としての選択的順応(selective accommodation)と制度的均衡(institutional balancing)の内容と意味を分析することを目的としています。1990年代以降、中国の経済的台頭が顕在化し、対応戦略の焦点は、ヘッジ、ソフト均衡といった、より実質的内容を反映した概念の活用へと変わってきました。こうした理論的発展を一帯一路構想への戦略的対応に適用し、東南アジア・南アジア・中央アジアの中心国であるインドネシア、インド、カザフスタンが一帯一路構想にどのような戦略的対応を行ってきたのか、その中で経済的利益、外交的規約、安全保障上の懸念といった国家的要因、自らが牽引する地域制度の形成・推進といった国際的要因はどのような影響を与えたのかを問います。

研究動機

2013年以降、中国政府は国家的事業として一帯一路構想の実現に向け、国際会議の開催、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金を通してのインフラ事業への融資など諸施策を実施してきており、中国周辺国への経済・社会発展に大きく貢献する可能性を有しています。一方で、中国への経済的依存の上昇は、対象国の政治的選択の自由度を狭め、外交上の自律性を低下させることになり、対中関係で安全保障上の係争を抱える国にとっては、一帯一路構想へ過度にコミットすることは大きな政治的リスクを伴うと考えられます。ヘッジ、ソフト均衡といったより実質的内容を反映した概念の活用という形での理論的発展を、中国周辺国の戦略的対応に適用して考察することは、アジアの国際関係を俯瞰する上で大きな意味があります。私は、過去8年以上にわたりアジアの地域協力に関連する研究を進めてきました。インドネシア、インドといった地域大国は、海洋安全保障に代表される政治・安全保障状況を常に意識しており、その意識が地域協力制度の発展に反映されていることが確認され、中国の一帯一路構想に対する対応戦略を、対内的な経済発展・安全保障戦略、対外的な地域協力制度発展戦略という2つの観点から包括的に分析することは、アジアの大国間政治に関する議論の深化につながると考えています。一帯一路に関して複数国の対応戦略を比較した体系的な研究は十分には進められておらず、本研究は一帯一路を対象に理論・実証の両面において新しい知見の提供を目指すものです。

研究の特色と意義

東南アジア、南アジア、中央アジアの中心国であるインドネシア、インド、カザフスタンが、自国の経済利得と安全保障の懸念、各国が牽引する地域制度の発展という国内・国際レベルの諸変数の複雑な絡み合いの下で、一帯一路構想に対して採用してきた戦略の比較・検討通じて、中国のプレゼンスの拡大に向けた周辺国の対応戦略に関する既存研究へ新たな示唆を与え、アジアの大国間関係に向けた課題と展望を提示します。


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