2017年度 科学研究費助成事業による研究 No.2

研究課題:アラブ王制持続の総合的研究 ヨルダン・ハシミテ王国とその周辺空間を巡って

研究代表者:吉川 卓郎

研究内容

今日の中東政治を理解するためには、地域システム変動といったマクロな分析に加え、実地調査を含め地域社会に密着したミクロな分析の双方の視点を持つことが重要です。その一環として、この研究ではヨルダン・ハシミテ王国(ヨルダン)の役割に注目し、同国をマクロ・ミクロ両方から総合的に研究することを目指しています。例えば、「アラブの春」を経てアラブ諸国に失敗国家が急増する中、ヨルダンは地域における数少ない安定した政治主体のひとつとなっています。しかし、その安定と持続性のメカニズムを裏付ける研究蓄積は不十分であり、学術的な成果を中東研究全体に還元できていない現状です。したがって、ヨルダンの体制持続の根拠を実証的に論究することは、変動の只中にある中東政治の実像を的確に把握するためにも極めて重要です。
具体的な研究目的は、次の3 点です:
① 王制の正当性を、歴史や政治を含め多角的に考察し、その基盤と支持構造を明らかにすること。
② ヨルダンの主な社会運動の比較分析を行うことで、それらの起源と目的、国政への影響力について測定すること。
③ ヨルダンと周辺の国家・非国家アクターとの関係を、国際政治と国内政治の両面から考察すること。
これらにより総合的なヨルダン研究を構築し、中東の政治変動やアラブ王制に関する研究全体に還元することを目標とします。

研究動機

ヨルダン研究における地域研究、政治学、国際関係学といった異なる分野を架橋する必要性を感じるからです。近年、ヨルダンの歴史や国際関係に関する研究成果が相次いで刊行されており、また「アラブの春」以降は、ヨルダンの民主化や市民社会形成に関する論考も登場しています。しかし、これらは研究者の専門分野に特化した分析が中心であり、またヨルダンの国家機構とそれぞれの分析対象の関係性が固定されているために(縦関係)、それらがどのようなネットワークで相互に連関しているのか(横関係)を示せていません。この研究では、ヨルダン研究における縦・横の問題点の克服を目指しています。

研究の特色と意義

この研究では、いわゆる「イスラーム国」に代表される脱領域的な暴力組織の浸透に対するヨルダン国家・市民社会の取り組みを含め、2015 年以降の全国的な反テロ機運の高まりとナショナリズムとの関連を調査し、多層化するヨルダンの難民を巡る情勢を、国際難民レジーム、国家、非国家アクター(社会とNGO)の相関関係から分析します。こうした包括的な分析の試みは国内外において前例がなく、ヨルダンをはじめ中東政治研究に新たな視座をもたらす先駆的な研究になると考えられます。


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