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2026/03/18
ご来賓のみなさま、教職員のみなさま、ご家族のみなさま、そして何よりも2026年3月卒業生のみなさん
おめでとうございます。
この大学で学ぶために海外から来られたみなさん、そして日本人学生の方も多くは故郷を離れて来られました。みなさんは今、この卒業式に共に集いました。どんな道を辿ってここに来られたとしても、みなさんとみなさんを愛する人たちがどんな苦労をされたとしても、今日という日がみなさん全員にとって等しくやって来たのです。
みなさんはパンデミックで大変なときにAPUに入学しました。2022年に学部生としてこの大学に足を踏み入れたみなさんの目の前に広がっていた世界は、依然として不確実で、マスクが当たり前の日常であり、再び動き出すことを模索している最中でした。そして4年後の今、みなさんは卒業とともに新しい世界に足を踏み入れようとしています。それは、劇的に、不可逆的に、そして誰も完全には予想していなかった形で変化した世界です。今日は少し立ち止まって、これまでの道のりを振り返ってみる価値はあります。過去にとらわれるためではなく、これまでの道のりを理解することが、これからの道のりを進んでいくために不可欠だからです。
みなさんが受け継いだ世界
ロシアによるウクライナへの全面侵攻は、みなさんの多くが入学するわずか1か月余り前に始まり、いわゆる先進国間の大規模戦争は過去の世紀のものだという前提を打ち砕きました。当然のものとして受け入れてきた国際秩序は自動的に維持されるものではないということを、私たちは痛烈に思い知らされたのです。同時に、平和は選択され、構築され、守られなければならないこと。制度を通じて、同盟を通じて、そして外交という地味で困難な努力を通じて守られなければならないものだということを。
その後、中東で暴力が発生しました。ガザでの紛争により、非常に複雑な地域全体で緊張が高まり、いまは今年2月から3月にかけて、合衆国とイスラエルによるイランに対する武力攻撃と、イランによる地域的反撃が発生しています(この紛争の背景には2025年6月、2024年4月に起きた限定的な武力の応酬があります)。私たちは憎悪、恐怖、和解、そして最終的には人間として互いに負うべき義務についての最も根本的な問題に直面したのです。
一方、米国と中国の間の大国間競争は、単なる言葉の応酬であったものが現実のものへと移行し、太平洋全域で貿易、テクノロジー、安全保障のあり方が作り変えられつつあります。APUが位置するインド太平洋地域は、世界情勢において最も重要な舞台の一つとなっているのです。
「古い秩序は戻ってこない」
2ヶ月前、カナダのマーク・カーニー首相は、スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムで演説を行い、世界情勢を不安視する人々の心に響くスピーチを行いました。彼は「世界秩序の断絶」について語ったのです。移行ではなく、断絶です。そして、私の頭から離れない次の言葉を述べました。「古い秩序は戻ってこない。それを嘆くべきではない。ノスタルジアは戦略ではない」と。
カーニー首相は、後にチェコ共和国初代大統領となるチェコの反体制派知識人、ヴァーツラフ・ハヴェルの言葉を引用しました。1978年の著作の中で、ソ連支配下のチェコで、「万国の労働者、団結せよ!」と書かれた看板を店先に掲げるごく普通の八百屋の主人のことをハヴェルは述べています。店主がその言葉を信じていたからではなく、トラブルを避け、「従順」に振る舞い、うまくやっていこうとしていたのです。ハヴェルはこの行為を「嘘の中で生きる」ことと呼びました。カーニー氏のメッセージは、看板を撤去する時が来たということです。現実に向き合う勇気を持つこと。願望の世界ではなく、現実の世界で行動を起こす時が来たのだ、と。
カーニー首相はまた、覇権国ではなく、一方的に条件を押し付けることができない中堅国についても言及しています。しかし、中堅国も無力ではないと彼は述べています。協力し、国境を越えて信頼を築き、覇権国からの支持を求めて争うのではなく互いに協力する国々は、自分たちが考える以上に大きな影響力を持っているのだと。それらの国々が力を合わせれば、第三の道を切り開くことができるのです。APUは、独自の方法で、まさにそれを常に信じてきた大学なのです。
日本での変化
日本では、過去4年間で大きな変化を目の当たりにしてきました。2022年夏の安倍元首相の暗殺は国民の良心に大きな衝撃を与えると同時に、自民党への国民の信頼を著しく失わせるきっかけとなりました。2024年には、困難な少数与党政権を担わされた石破首相の下、自民党は過半数議席を失いました。
そして先月、解散総選挙が行われ、歴史的な結果がもたらされました。自民党は衆議院で3分の2の圧倒的な多数議席を獲得。これは、初の女性首相である高市氏の元で手に入れた、戦後日本史上、単一政党による最大の獲得議席数です。長年にわたる政治の分裂を経て、今や日本は明確な立法権限を有する政権を持つこととなったのです。
この選挙結果が実際にどのような意味を持つのかはまだ分かりません。日本は本当に難しい選択に直面しています。財政の持続可能性、防衛力の拡張、ますます分断が進む世界経済における貿易関係、そして今後数十年にわたる人口動態において、日本がどのような社会になっていくのか、といった問題です。これらは決して簡単な問題ではありません。英知と忍耐、そしてAPUの使命の中心に常に据えられてきたような国際的な関与が求められるでしょう。
経済面では、多くの人が決して来ないと思っていた転換期を日本は既に迎えています。30年間のデフレを経て、賃金は30年ぶりに上昇し、日銀は17年ぶりに利上げを実施しました。これらは構造的な変化であり、その全容はまだ明らかになっていないところです。
すべてを変えたテクノロジー
おそらく、みなさんの大学時代における最も重要な変化は、戦争でも選挙でも金利でもなかったと思います。それは会話だったのです、それも機械との。
ChatGPTが2022年後半にリリースされたとき、多くの人が新奇なものとして捉えました。しかし、数ヶ月も経たないうちに、全く新しい技術であることがはっきりと分かります。みなさんが学部や大学院で学んでいる間に、生成AIは、医学、法律、教育、クリエイティブワーク、そして専門的知識の本質そのものを変革し始めているのです。みなさんは、大学生活のすべてをこのテクノロジーと共に過ごした史上初の卒業生なのです。
将来活躍する卒業生とは、このテクノロジーを恐れる者でも、自らの判断をそれに委ねる者でもありません。アルゴリズムでは真似できないものをテクノロジーに持ち込む者です。それは真の好奇心、倫理的な責任感、そして情報に基づいた適切な質問をする能力です。これらは私たちがAPUで育成しようと努めてきた資質です。みなさんが今日、これらの資質を身につけたと自信を持って巣立ってくれることを願っています。
この大学があなたに与えたもの
APUで実際にしてきたことを考えてみてください。100以上の国から来た人々と共に生活してきました。言語、宗教、文化的背景といった違いを乗り越えてきました。それは一時的な練習ではなく、日々の生活の一部だったのです。意見の相違や誤解もあったでしょう。しかし、そこから立ち直り、そして理解し合ってきました。外の世界では壁とみなされがちなあらゆる境界を越えて、友情を築いてきたのです。
国家やイデオロギーによって分断される世界において、これは決して小さなことではありません。それは驚くべきことなのです。そして、カーニー首相が中堅国について述べたことを思い出してください。つまり、支持を得ようと競争するのではなく互いに協力し、違いを越えて信頼を築く国々は、自らが考える以上に大きな力を持っている、ということです。これは個人にも同様に当てはまります。異なる文化を乗り越えて働き、他の人が分裂しか見出せない状況の中で共通の土壌を見出す能力、それはまさに、今この世界が切実に必要としている力なのです。
海外から来た卒業生のみなさん。みなさんは、言語的、文化的、地理的といった現実の距離を越えて、未知のものを理解するために、この地へ来ることを選択しました。この旅がみなさんに与えた影響を、決して過小評価しないでください。
日本人の卒業生のみなさん。みなさんは、自分の国にありながら、自分があえて少数派となるような大学を選びました。それは、おそらく当時みなさんが思っていた以上に勇気ある行動でした。開放性との、移民との、そして世界との日本の関係は、今まさに再度問われているところです。今日このキャンパスを巣立とうとしている卒業生のみなさんは、まさにその議論に貢献できる資質を備えた最高の人材なのです。
最後に
APUは「自由、平和、ヒューマニティ」という三つの理念に基づいて設立されました。自由が脅かされ、平和が当然とは限らず、遠く離れた他者のヒューマニティがあまりにも軽々しく否定されるこの世界において、これらの理念は単なるお飾りではありません。行動指針なのです。
カーニー首相は、世界の最高指導者たちに、ノスタルジアは戦略ではないと語りました。私は付け加えたいと思います。絶望も戦略ではない、と。みなさんには、厳しい意味での理想主義者になってほしいのです。プレッシャーの下でも自分の価値観を堅持し、洗練さを装うシニシズム(冷笑主義)を拒絶し、より良い世界を築くことは厳粛な、大人の、プロフェッショナルな仕事だと信じる人間になってほしいのです。
あなたはこの瞬間のために2年または4年をかけて準備してきました。世界は、どんなに混乱の中にあっても、こうして成長したあなたを真に必要としているのです。
自信を持って、謙虚に、そして単なる願望ではなく真の準備に裏打ちされた希望を持って、さあ、世界へ踏み出してください。
2026年3月卒業生のみなさん、おめでとうございます。
世界はあなたを待っています。
2026年3月13日
立命館アジア太平洋大学
学長 米山 裕