学長ノート

卒業生へのメッセージ(2024年春学位授与式)

2024/03/15

祝 辞

 APS、APMの卒業生の皆さん、GSA・GSMの修了生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんはAPUで先生たち、クラスメート、先輩や後輩、職員、研修先や留学先で出会った人たち、アルバイト先の上司や仲間など、多くの人と関わり、支えられ、鍛えられて今日の日を迎えました。

 APUのグローバルな環境において、さまざまな文化と接して悩み、乗り越え、APUでしか体験できない学びを進めてきました。これまで学生の学びを支えてくださった保護者やご家族の皆さま、本当にありがとうございました。APUを代表して、心からお祝いを申し上げます。

 ここにいる皆さんの多くは、コロナのパンデミックと共に大学生活を始めました。入学式の中止。Zoom授業への全面移行。2度にわたる授業開始の延期。APハウスでの厳しい感染防止対策。国際学生の入国の遅れ。アルバイトの機会の消滅。観光客が激減して閑散とした別府の町。別府で暮らしながら、あるいは実家に戻ってオンライン授業を受ける日々。低回生時の留学機会の消滅とオンライン代替プログラム。不便なこと、不安なことも多かったと思います。

 世界保健機関(WHO)によると、今回のコロナウイルス(COVID−19)による死者は今年の2月時点で約700万人とのことです。研究者の中にはこの2倍から4倍の死者が出たと推計する人もいます。日本や近隣のアジア諸国では厳しい行動制限の効果もあり、人口100万人あたりの死者は400人から700人程度でしたが、政府の行動制限に反発する人が多かったアメリカ、イギリスなどの欧米諸国では3000人から4000人と、社会的なインパクトにおいて大きな違いがありました。幸い、と言って良いでしょう、APUの在学生の死者は出ませんでした。

 私の挨拶の冒頭で、皆さんが多くの人に支えられてきたことに触れました。学長として、APUの教職員、卒業生、自治体の皆さんの奮闘について少し触れたいと思います。アカデミック・オフィス職員の皆さんは、6000人の学生がZoom授業を受けられるよう、3ヶ月あまり、毎日、夜遅くまで準備に追われました。先生たちも自主的に学習会を開いて、先生役と学生役を交替しながらZoom授業の準備をしました。スチューデント・オフィス職員の皆さんは、APハウスや別府市内でクラスターを出さないよう、各地を回って情報を集め、皆さんを指導しました。世界中の先輩や、地域の皆さまから支援をいただき、APU Handsとしてハウス4で食料を配りました。日本政府、大分県、別府市、そして学校法人立命館、それぞれが奨学金やアルバイト先を作り、皆さんの学生生活を支えました。

 コロナ対策の入国制限によって、APUに入学しながらも日本に入国できない国際学生を支援することも、グローバルな学習環境を何よりも大切にするAPUにとっては大きな課題でした。アドミッションズ・オフィスの職員を中心に、政府が入国制限を緩和するたびに、集中的な国際学生の入国支援を行いました。空港での出迎えと近くのホテルへの移動。ホテル待機期間中の食べるものや心の支援。別府への移動の支援。入学者が多い国では、出国前の支援も実施しました。2022年の3月から7月にかけては、1100人以上の国際学生を一気に入国させることができました。22年6月には彼らを迎えて「第2の入学式」(Welcome to Your Home 2020-2022!)を開き、キャンパスを「みんな待っていたよ」(We've been waiting for you!)のバナーで埋め尽くしました。

 皆さんは、コロナという困難に遭遇しましたが、現代技術を駆使して友人と繋がり合い、励まし合いながら学業を継続し、卒業・修了後への道を切り拓いてきました。皆さんのレジリエンス、つまり「逆境に負けない力」に心から敬意を捧げたいと思います。

卒業にあたって、2つのお願いをしたいと思います。

 1つ目は、正しく生きてほしい、ということです。人格(character)という言葉があります。人格は自ら作るものです。皆さんの人格は、皆さんのこれからの人生の中で、皆さんが何を考え、何を感じ、何を決めるのか・・・そういった日常生活の中で決まっていきます。自分の行為、言葉、態度が自分で恥ずかしくないと思えるものか、常に考えてください。法律や規則を破らなければ大丈夫だとか、人に見つからなければ良いとか、そういった次元の人生を生きないでください。勇気を持つこと、困難に負けないこと、正直であること、忠実であること、人に共感すること・・・こういったことを実践し続けることは、本当に意義のあることです。

 2つ目は、一人一人の人間を大事にしてほしい、ということです。APUは世界の大学の中でも、類い稀な多様性を持つキャンパスを創り上げてきました。多様な国や地域、文化、習慣、宗教などを背景とする学生が集うのがAPUです。そういった文化や考え方の違いがあることを前提に、さらに個人個人を認め合い、大学コミュニティのメンバーとして過ごした経験は、これからの人類社会のあり方を先取りするものです。APUではこういったありかたを「インクルーシブネス」と呼んで、大学づくりの基本としています。皆さんも、インクルーシブなAPU体験を生かして、これからの人生で出会う人たちを大事にしてほしいと思います。同時に、APUを経験した仲間(先輩、クラスメート、後輩)も大事にしてください。

 いま、世界の多くの国で、「自分たち」とは異なる「他者」を悪者にし、排除することで支持者を集める政党の力が強くなる傾向が見られます。アメリカ合衆国の大統領選挙で共和党の候補となることが確実視されるドナルド=トランプは、女性やマイノリティに対する差別的発言を繰り返し、平等を保障する社会の仕組みを破壊しようとしています。イタリアの首相ジョルジャ=メローニは、同性カップルのパートナーシップに反対し、非ヨーロッパ系移民の受け入れや多文化主義を否定しています。フランスでは、人種主義思想を掲げた政党が、政権は取れませんでしたが強力な政党となっています。スウェーデンでは、2022年の9月の総選挙で反移民、反イスラームのスウェーデン民主党が第2政党に躍進し、オープンな社会作りを推進してきた政権が退陣に追い込まれました。このように、従来、民主主義が確立されたと思われてきた欧米で起きている変化は注目に値します。アジアやアフリカの状況も良くありません。

APUで育った皆さんにお願いしたい。APUは、私たち一人一人が、自由と平和を追求する人間として、人間の尊厳に対する畏敬の念を持つことが何よりも大切だという信念を持つ大学です。これからの皆さんの長い人生において、先ほど述べたように、一部の人たちが諸悪の根源であって、彼らを排除することが社会にとって良いことである、というような主張に出会うことがあると思います。ひょっとしたらそういう主張に説得力があると思うかもしれません。そんな時には、APUで培った、一人一人をリスペクトし、受け入れる感覚を思い出してほしいのです。APUで学んだ皆さんには世界を救う力があります。

 皆さんは、今日をもってAPUの学生であることをやめ、APUのアラムナイになります。今後の皆さんの活躍が大学としてのAPUの発展を支えますし、APUの発展が皆さんのキャリアを支えます。その意味で、皆さんはこれからもAPUのメンバーです。

今後の人類社会は、気候変動、国際紛争など多くの地球規模の課題を解決していかなければなりません。皆さんが、APUで身につけた専門的能力、世界の友人と支え合うネットワークの力、そしてコロナ禍を乗り越えたレジリアンスを生かして、それぞれが解決に向けてリーダーシップを発揮してくれることを願います。

 皆さんのこれからの人生に幸多からんことを祈ります。ご卒業、本当におめでとうございます。

2024年3月15日
立命館アジア太平洋大学
学長  米山 裕



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