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ウェンダ・グムリヤ

受けた恩を次の世代へ: 教育を通じた未来づくり

ウェンダ・グムリヤ Wenda Gumulya

HOSHIZORA財団 共同創設者兼会長
デロイトグループ ディレクター
2006年9月アジア太平洋マネジメント学部卒業*。インドネシア出身。インドネシアの教育NGOであるHOSHIZORA財団の共同創設者、理事長。有限責任監査法人デロイト トウシュ トーマツ(オーストラリア)、ディレクター。社会事業家として、世界中のソーシャルインパクト活動にもアドバイザーとして関わっている。
*2009年に国際経営名称変更。
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Introduction

インドネシア出身のウェンダ・グムリヤさんは、APU卒業後、世界的なコンサルティング・会計事務所のデロイトグループの東京オフィスでコンサルタントとして働き始めた。現在は、オーストラリアに住み、同社のシドニー支局のディレクターとして働いている。また、グムリヤさんはグローバルビジネスパーソンとしての顔に加え、インドネシアで奨学金と教育プログラムを提供する非営利団体、HOSHIZORA財団の共同創設者兼会長としての顔も持つ。HOSHIZORA財団は、APU在学時の小さな活動がきっかけで始まり、現在では、インドネシアの3000人以上の子どもたちに奨学金を提供し、インドネシアの僻地の教師や学校への支援プログラムを提供している。「異なる文化に対応する姿勢はAPUで学んだもの」と語る彼女に、APUでの学びから、企業や慈善活動においてリーダー的役割を果たすようになるまでの道のりをうかがった。
ESG支援と日本企業支援の2つの役割

現在、デロイトでの私の役割は2つです。一つは、監査および保証部門内のESG実践のディレクターとして、オーストラリアおよび世界中の企業のESG報告、戦略、リスク管理を支援し、持続可能性の実践を向上させ、世界基準に沿うための包括的なサービスを提供することです。

もう一つは、デロイト日本サービスグループの全国リードディレクターです。このグループは、オーストラリアで活動する日本企業の経営や投資を支援するサービスを提供しています。これには、M&A取引、オペレーションの最適化、戦略およびリスク管理、コンプライアンス、課税、財務報告などが含まれます。

この国際的なキャリアとAPUで学んだ経験はどうつながっているのだろうか。APUとの出会いを聞いた。

APUの奨学生となる

グムリヤさんがAPUを知ったのはご両親がインドネシアの新聞でAPUの広告を見つけたのがきっかけだった。

APUのことを両親から教えてもらった時、最初は日本語で勉強するは大変そうだなと思っていました。しかし、APUも出展していた合同大学説明会に出席したときに、「英語と日本語の両方で授業を受けることができる」と説明してもらい、考えが変わりました。APUに世界各国から多様な学生が集まってくることにも魅力を感じました。さらに、APUからとても良い奨学金をいただけることになり、進学を決めました。

入学後の寮生活では、本当に数多くの国際学生と知り合いました。私と同じ階には20人以上の女の子がいました。隣にはドイツ系サモア人の女の子がおり、向かいにはタイの学生が住んでいました。インド人の友人は、私にベジタリアン料理のコツを教えてくれました。ウガンダの友人からもウガンダ料理を教えてもらいました。今でも大切にしている思い出です。APUは国境を越えた友情と新たな料理を楽しむことを私に教えてくれました。

寮生活を通して日本、スリランカ、マレーシア、中国、韓国、ブルガリア、オーストラリア、香港、ベトナム、カナダ、ウクライナ、ロシアなど、さまざまな国々の女の子たちと友達になりました。今でも連絡を取り合っています。私たちが共有していたキッチンは、夕食や料理を通じた文化交流のための社交場でした。アルバイトの機会に関する情報も交換したりして、お互いに助け合っていました。

10代のあの頃に異文化がごちゃ混ぜの環境に身を置いた経験は、今の私にとっても大事なものです。さまざまな文化、異なる考え方をする人と交流することに慣れているため、他者を観察し理解する時にとても役に立つのです。

インドネシアの子どもたちへ1,000円の奨学金を送る

奨学金のありがたさを感じる日々を過ごしていたグムリヤさんは、APUの友人たちと1回のランチ代1,000円を寄付して、インドネシアの子どもを1人学校に通わせるというアイデアを思いついた。それが、現在彼女が会長を務めるHOSHIZORA財団の始まりだった。

その当時も、今もインドネシアの特に都市から離れた僻地に住む子どもにとって、1,000円はとても大きなものです。この金額で、そのような子どもたちの多くの教育費をカバーすることができます。

しかし、奨学金プログラムを整備していくのは簡単なことではありませんでした。寄付された資金が教育にのみ使用されるようにする必要がありました。なぜなら、一部の親がそれを家計費に使ってしまうことがあるからです。

この問題に対処するため、彼女たちは地元の学校教員と協力してプログラムをモニタリングすることにした。現在、何百人もの教員がこのプログラムを監視するボランティアとして活動しており、またHOSHIZORA財団と協力して子どもたちのための教育活動に関わってくれている。これらの教員の献身と数多くのボランティア、約40人のスタッフメンバーのおかげで、HOSHIZORA財団は3,000人以上の子どもたちが学校に通うのを支援し、インドネシアの僻地を含む多くの地域で数百の教育実践に取り組んでいる。

HOSHIZORA財団の「教育レジリエンス・フレームワーク」

インドネシアの平均的な教育レベルは多くの人たちの努力によって近年向上していますが、問題は、都市の質の高い教育を受けられる子どもたちと地方の満足に教育を受けられない子どもたちの間の格差です。

子どもたちの教育の成功は、彼ら彼女らを取り巻く社会環境に大きく依存していることを認識したグムリアさんたちは「教育レジリエンスフレームワーク」を開発した。このフレームワークは、教育へのアクセス、教育方法と教材、教員の適応性、学生の適応性、親へのサポートの5つの柱で構成されている。これらの5つの柱に取り組むことで、すべての子どもたちが学ぶことができる包括的かつ協力的な環境を作り出すことを目指している。

HOSHIZORA’s Resilience Education Framework / HOSHIZORA財団の教育レジリエンスフレームワーク
HOSHIZORA’s Resilience Education Framework / HOSHIZORA財団の教育レジリエンスフレームワーク

1つ目の柱は『教育へのアクセス』です。この柱は、主に奨学金を通じて、子どもたちとその保護者が望む教育を受けられるよう財政的支援をすることです。これには、学費、教科書、文房具が含まれます。他にも離島から学校へ通学するためのボート燃料などの交通費が含まれます。

2つ目の柱、『教育方法と教材』は、活用しやすく、魅力的な学習アプローチを促進することに焦点を当てています。HOSHIZORA財団は、教員たちがワークショップやディスカッションを通じてスキルを身につけることをサポートし、地域のニーズに合わせて学習体験をカスタマイズし、子どもたちの学習成果を最大化することを目指しています。

3つ目の柱、『教員適応性』に関連しては、HOSHIZORA財団専任の心理学者と教育者が関わる教員能力開発チームがあり、教員たちの能力を向上させるプログラムを開発・提供しています。最近では、COVID-19パンデミック中に僻地の教員の教育スキルとデジタルリテラシーを向上させるプログラムを提供しました。

4つ目の柱『学生の適応性』は、学問的知識と並んで重要なソフトスキルの向上のことです。HOSHIZORA財団のフレームワークでは、批判的思考、問題解決、コミュニケーション、協調といったスキルを学ぶことを重視しています。急速に変化する世界では、これらのスキルを学生が身につけることで、より柔軟に適応し、成長していけるようになると考えています。

家族のサポートし、勇気づけることが5つ目の柱となる『親へのサポート』の核心です。私たちは、子どもの発達、家計の計画、栄養などのトピックを伝える親向けのプログラムを実施しています。これらのワークショップでは、教育の長期的な利益について伝えます。例えば、ある参加者の親は、教育が将来のキャリアや家族のウェルビーイングにどのように影響するのかを理解した後、『娘が18歳になるまでは結婚させない』と言うようになりました。これは、長期的な目でみれば、親向けのプログラムが子どもの早婚率を下げ、村を経済的に豊かにすることに貢献できることを示しています。

この教育レジリエンスフレームワークを元に、相互に関連する柱に取り組むことで、影響が波紋のように広がっていく。個々の学生の成果だけでなく、家族とコミュニティの全体的な幸福も高めているのだ。

アイデンティティの重要性

これまでのキャリアのなかで、グムリヤさんは国際ビジネスパーソンとしての役割と社会貢献プロジェクトのリーダーとしての役割を巧みにバランスさせてきた。また、彼女はHOSHIZORA財団の他にも、世界中の多くの非営利イニシアチブで理事およびアドバイザーを務めている。

グローバルな世界が求めるスキルを伸ばし、それらを自分自身のユニークなアイデンティティやリーダーシップスタイルと統合させることは、アートのようなものです。それは私たちが成長するために必要な学習プロセスだと思います。グローバル社会で生き、仕事をする中で、自分のルーツや文化を理解し誇りを持つことは、人々があなたに誠実さを感じ、信頼を築いていくことにつながります。私はAPUでアイデンティティの重要性について多くを学びました。多様な文化に身を置いたことで、人と異なることが普通のことで、自分のアイデンティティを持つことが良いことなのだと学びました。

国際ビジネスの世界では、共感とオーセンティシティ(真正性)のバランスとる技術を習得することが極めて重要です。この組み合わせによって、グローバルなパートナーはあなたとの真のつながりを感じ、信頼関係を築くことができるのです。私はHOSHIZORA財団でも同じ原理が働いていることを経験してきました。子どもたちが自分の才能を発見し、本当の自分を受け入れ、日常生活の中で共感を感じられることで、自分らしく活躍することができるようになります。私のこれからの願いは、HOSHIZORA財団の活動がインスピレーションとなって、他の組織や活動でも、誰もが多様性と共感の中で共に成長できる世界が広がっていくことです。

本物であること、共感すること、そして学び続けるプロセスを受け入れること。それが、私がAPUで学んだことであり、今でも大切にしていることです。

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