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永野雄太

小口融資から始まる社会変革: カンボジアでフィンテック事業を立ち上げ、 金融包摂に貢献

永野雄太 NAGANO, Yuta

デジクロ株式会社 創業者兼CEO
2013年春アジア太平洋学部卒業。APUで貧困問題、ソーシャルビジネスについて学ぶ。卒業後は三井住友銀行に入社。2013年秋よりカンボジアに移住、現地企業に転職し、マイクロファイナンスや不動産ファンドの業務に従事。2017年にデジクロ株式会社を創業、非銀行利用者層向けの金融アプリを展開。ハーバード大学公共政策大学院修了。APU校友会の団体「APU Startup Founders」の代表も務める。
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Introduction

2013卒業の永野雄太さんは、カンボジアでスタートアップを経営している。従来の伝統的な金融サービスを利用できない小規模事業者などに対し、小口融資、後払い決済、マーケットプレースといったサービスをアプリで展開。金融サービスは電気や水と同じように社会の基本的なインフラであると考える永野さんは、たとえ途上国に住んでいようとも、誰もが金融を活用して第一歩を踏み出し、人生を切り拓いていける世界を思い描いてきた。2023年9月現在、アプリは200万インストールを突破し、自社サービスをカンボジア国内唯一のサービスに成長させてきた。「途上国の金融を仕事にしよう」と決意した永野さんの学生時代と、その後の歩みを聞いた。
少年兵についての記事を読んで、社会問題に関心を持つ

体操に打ちこんでいた高校時代、たまたま読んだ少年兵の記事がきっかけで途上国の問題に関心を持ちました。自分の好きなことができる、選択肢があることは幸せなんだなと。生まれた環境によって違いが生まれるのはどうしてだろう?と単純に興味を持ったのがきっかけです。大学で体操を続けることも考えましたが、違う分野で新しいことにチャレンジをしようと思いました。

永野さんは横浜市出身。九州にあるAPUに進学することは、当初両親の反対にあったそうだ。それでも、途上国から集まる留学生と社会問題について議論できるのは日本にはAPUしかない、と進学を決めた。
入学直後、最初のレポートのテーマも「貧困」。社会課題について貪欲に学び始める。クラス分けで一番下になってしまった英語はSALC(APUキャンパス内にある言語自主学習センター)を活用し必死に勉強。2回生時にはイギリスへ交換留学し、主にソーシャルビジネスを学んだ。

APUやイギリスで学んでいくうちに、途上国に援助するだけでは援助される側が依存体質になってしまうことを学びました。それなら、貧困層と呼ばれる人たちが生活を持続的に向上できるような社会的ビジネスを作りたい、と思うようになりました。特に興味を持ったのはマイクロファイナンスです。マイクロファイナンスは途上国の貧しい人たちに対する小口融資の総称で、事業を始めたり、生活の向上を目的とした金融事業のことです。1回生の最初のレポートでTA(ティーチング・アシスタント)に紹介されたのをきっかけに、もっと学びたいと思うようになりました。その後、3回生の時にグラミン銀行でインターンシップを経験しました。

グラミン銀行は、バングラデシュの貧しい女性たちを対象に、無担保で小額の資金を貸し出す事業をしており、ノーベル平和賞を受賞したことでも知られる。

(写真:グラミン銀行創設者で2006年ノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士との一枚)

自分でグラミン銀行のWebサイトの問い合わせ欄から連絡して、インターンとして受け入れてもらいました。インターン中は、マイクロファイナンスの仕組みについて説明を受けた後、郊外の村に滞在しました。そこでは借り手の女性たちに借入金額、用途、生活の変化などをインタビューしてまわりました。現地でどのようにお金が使われて、どんな影響を与えているのかを全部見せてもらうことができました。人々の生活が向上すること、それが小さい村々まで行き渡っていることは素晴らしいと身をもって経験しました。
インターンの経験から、金融サービスはインフラだということにも気付きました。電気や水と同じで、それにアクセスできることは大事だけれど、それがあるからといって貧困が解決されるわけではない。そのインフラを使って、一歩を踏み出すことで少しずつ生活が良くなっていくことが大事と学びました。このインターンを経て、将来はマイクロファイナンスの仕事をしようと志しました。

卒業後、日本企業に就職した直後に訪れた転機

卒業後、永野さんは三井住友銀行に就職する。その選択も、他の金融機関と比べて入社後に最も早く海外に赴任できるチャンスがあるからだった。しかし、入社直後の夏休みに転機が訪れる。

社会人一年目の夏休みにカンボジアに旅行に行った時、現地でマイクロファイナンス機関を経営している日本人に知人を通じて会う機会がありました。そこで、その方から「うちで働かないか」と誘われました。自分がやりたいことを実現している人の元で直接働けるまたとないチャンスだと思い、銀行を辞めて、カンボジアに移住しました。

その経営者に3年弱鍛えてもらって独立し、2017年に今の会社を創業しました。最初は、金融サービスの比較サイトを運営していました。各金融機関の金利比較をウェブサイトに掲載して、サイト経由で融資を受けた人がいたら、金融機関から紹介料をいただく送客ビジネスです。しかし予め簡単な審査をした上で送客をしていたのにかかわらず、全然融資が下りないという事態になってしまいました。カンボジアには小口融資を専門にするマイクロファイナンス機関が80社以上あるのに、実際にサービスを利用できる層は限られていることがわかりました。直接お客様に聞いてみると、審査に落ちた理由は担保がない、必要な公的書類が揃わないといった問題が出ていました。金融機関の限られた与信方法が原因で本来返済できる人も落とされているのではと思い、従来の方法以外で信用度を測ることができないかと調査をしました。その結果、カンボジアではスマートフォンが広く普及していて、デバイス内のデータが与信に使える可能性があるとわかり、自分でリスクを取って融資事業をやろうと決心しました。それから資金調達、アプリ開発のためにエンジニア採用、事業ライセンスを取得し、そして2019年3月になんとかサービスを開始できました。資金調達と採用は本当に苦労しました。アプリの名前は現地子会社と同じ名前でスピアンロイと言います。カンボジア語でスピアンは「橋」、ロイは「お金」です。

(写真:2020年頃に撮った全社員との記念写真)
すべての人たちに、金融サービスを

永野さんがつくったサービスは、スマホアプリで手続きが完結でき、いつでもどこでも融資が受けられるところに大きな特徴がある。

スマホのデータから即座に融資判断を行い、信用スコアに応じて最大1000ドルまで融資します。融資申請から返済までスマホアプリで全て完結できるのは今日現在当社だけです。他の金融機関を利用できなかった方々が、私達のサービスを利用することで、事業規模を拡大でき、所得向上につながったと聞くと嬉しいです。

まさに、これまでカンボジアで従来の銀行サービスの恩恵を受けることができなかった人たちに金融というインフラを提供している。

現在はマイクロファイナンスだけにとどまらず、金融と小売のデジタル経済圏の構築を目指しています。まず当社の融資でビジネスを拡大した事業者が、自社の商品を掲載・販売できるマーケットプレースをアプリ内につくりました。さらにそこで商品を購入するお客様をサポートするために後払い決済のサービスを追加しました。後払いサービスは実店舗でも利用でき、2023年9月現在はカンボジア全土で1,000店舗以上で利用できます。日本のQRコード決済のように、スマホアプリで読み込むだけで購入できます。その他にもデータを活用した金融システムを開発中で、今後は東南アジアの他の国にも広げていけたら、と思っています。

途上国の金融を仕事にするという夢を叶え、起業家としても会社を成長させてきた永野さんは、より大きな目標に向けてまたもう1つ大きな「決断」をした。ハーバード大学の公共政策大学院で学び始めたのだ。

これまで事業の成長のために頑張ってきて、結果的に社会的課題の解決にもつながっていると思っていましたが、同時に民間企業としての葛藤も感じていました。どうしても日々自社の数値に集中してしまい、当初の社会的意義が薄れてしまっていたことがあります。そこで民間以外の政策や公共セクターでよりマクロな仕組みについて学べば、もっとできることが見つかるかもしれないと思いました。この大学院での1年は、とにかく視野を広げて、異なるバックグラウンドを持った学生と話をすることに時間を割きたいです。APUを選んだ時、もっと言えば体操に打ち込んできた時から変わらないのですが、こうして自ら決断して、行動し、自分がやりたいことを見つけていく。それが私らしいと思っていますし、今後も社会課題の解決のために取り組んでいきたいと思っています。

全ての人たちが医療、食糧、教育を得られる社会をつくりたい。学生時代から始まった永野さんの挑戦は、カンボジアを経て、さらに加速し続けている。

(この記事は2023年夏にハーバードで学び始めた際のインタビューに基づいています。永野さんは2024年8月現在、同大学院を修了しています。)

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