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エカテリーナ・ポラス・シヴォロボワ

つながりとデータで不正義に対抗する: 中東湾岸地域の移民労働者の人権を守る

エカテリーナ・ポラス・シヴォロボワ Ekaterina Porras Sivolobova

Do Bold創設者
2009年9月アジア太平洋学部卒業、2012年9月アジア太平洋研究科博士前期課程修了。国籍はメキシコ。Do Bold創設者、ディレクター。Do Bold設立以前は、労働、ジェンダー、難民、移行期正義、人権とビジネスに関する問題に従事。東南アジア、南米、湾岸諸国を担当。司法国際法センター(Center for Justice and International Law)から出版されたジェンダーと暴力に関する法学の著書を共同執筆。
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Introduction

中東の湾岸諸国の家庭では、アフリカやアジアの国から来た多くの出稼ぎ労働者が家事労働者として働いている。家事労働者は、雇い主の家で、掃除や料理、子どもたちの世話まで家事全般をこなす。住み込みで働く場合も多い。しかし、家事労働者は、カファラ制度によって、外から隔離された家の中で働き、適切な休日を得られないなど、弱い立場に置かれることが多い。そうした人たちの窮状を救い、問題の構造的解決のために活動する人権NGO Do Boldの代表が、エカテリーナ・ポラス・シヴォロボワさん(以下、ポラスさん)。APUでの学びと中東湾岸地域での人権活動についてうかがった。
APUとの運命的な出会い

APUとの出会いは、まさに運命的な出会いです。当時、私はロシアにいました。それまで、アメリカで学んだり、働いた経験はあったのですが、世界のどこでもいいからしっかり学びたいと思っていました。当時から人権や社会問題について関心を持っていたので、国連と繋がりのある大学について調べてみると、膨大な提携先大学のリストを見つけました。しかし、当時私がいた町は、インターネットへアクセスするにも、郵便物を送るのにも隣の町まで時間をかけていかなくてはならず、複数の大学を検討する余裕はありませんでした。なので、リストの中からAPUを選んだのは、ほとんど奇跡のようなことだったと思います。幸い、奨学金もいただけることになり入学を決めましたが、最初は別府が日本のどこにあるのかも知りませんでしたから。

APUに入学したポラスさんは、通常の新入生とは少し異なる学生生活を送る。

他の学生より年上だったので、周りのみんなの様子を楽しく眺める余裕がありました。また、すぐに寮を出て別府市内に住み始め、学校の外での生活も楽しみました。バイトは、英語教師をしたり、レストランで働いたり。別府市内でベリーダンス教室を開いたりもしました。学生から先生たち、町の人たちまで、様々な人たちと関わりながら充実した日々を過ごしました。250 ccのバイクにも乗っていたんですよ。東京で買ったバイクに乗って、陸路とフェリーを乗り継いで別府まで帰ってきた旅は、特に記憶に残っています。瀬戸内海の素晴らしい景色、自然、優しい人たちに恵まれて、とても良い思い出です。

所属学部はアジア太平洋学部(APS)。ポラスさんは、興味のあった社会課題について貪欲に学ぶだけでなく、学外での学びやインターンシップにも積極的に取り組んだ。

APUの学内で行われたイベントで、カンボジア協力平和研究所(CICP)の代表に出会いました。その場で夏休みのインターンシップをしたいと伝え、承諾してもらいました。カンボジアでは、今のSDGsの前進であるUNDGsの進展に関する研究を委託されたオーストラリア人研究者のアシスタントをすることになりました。彼女についてまわりながら、ミーティングのスケジュール管理、記録などをしました。さまざまな省庁や関係者に出会い、実際にどんな人たちがどのように働いているのかを目の当たりにできたのは、すごく大きな学びになりました。

在学中は、当時APUで国際法を教えていた高柴優貴子先生のティーチングアシスタント(TA)としても働いた。

私の卒業研究は、アルゼンチンの移行期正義、つまり独裁政権後、どのように社会が社会的公正に向けて変化してきたのかを研究しました。当時、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)及び国際司法裁判所(ICJ)での勤務から帰国し、APUで教鞭を取っていた高柴先生のもとで、国際司法の複雑さを学んだだけでなく、中身のある長い論文を書くスキルも磨くことができました。長い論文を書いたことは、今でもとても役に立っています。アルゼンチンとの繋がりは、その後、Center for Justice and International Lawでインターンシップを行い、働くことにもつながりました。高柴先生との出会いは、私の職業的人生においてとても重要な出会いでした。高柴先生とは今でも連絡をとっています。

*高柴先生は、現在、西南学院大学にて法学部教授(国際法)として教鞭をとっている。

中東の湾岸諸国の移民労働者の問題に取り組む

ポラスさんは、アルゼンチンで働いた後、再びAPUに戻り、大学院で学んだ。ドイツのトリア専門単科大学(Trier University of Applied Sciences)とAPUのデュアルマスターを取ることができるIMATプログラムだ。ドイツ滞在時には、学部時代から知り合いだったドイツ人のAPU校友生でもある現在のパートナーと再会し、結婚。パートナーの転勤がきっかけでクウェートに住むことになった。

クウェートに行くとなった時、かねてから関心のあった人権に関する仕事ができると思いました。初めは自分の経歴や経験に関連する仕事を探していたのですが、機会を得られなかったので、自分で何かやってみようと思い立ちました。そこで助成金を得て、家事労働者をテーマにしたプロジェクトを立ち上げました。それが軌道に乗り、今に続いているという感じです。

中東の湾岸諸国における移民労働者の状況は、労働者の出身国の貧困問題、受け入れ国の労働法の問題、慣習の問題など、さまざまな問題が複雑に絡み合っている。ポラスさんが立ち上げた「Do Bold」は、アジアやアフリカから多くの移民労働者を受け入れているオマーン、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の「移民労働者」の問題に焦点を当てて活動している。

家事労働者の大半は女性で、雇用主の家で住み込みで働いていることがほとんどです。年中無休で働き、常に仕事が降ってくる状態が恒常化し、仕事とプライベートの境界線がなくなってしまいます。本来、法律上、彼女たちには週に1日休みを取る権利がありますが、実際は、滅多に取ることができていません。このようなことが社会の中で常態化し、普通のことだと思われていることが、一層状況を変えることを難しくしています。

そして、彼女たちが虐待やハラスメントを受けたとしても、雇用主の家を出ることはしばしば犯罪とされるため、逃げ場も支援もなく、追い詰められてしまうのです。雇用者や斡旋業者からパスポートを取り上げられてしまっている場合もあります。

「Do Bold」は、オマーンだけでも、これまで300名以上の移民労働者たちとつながり、支援してきた。

私たちの支援は、ほとんどの場合、不当な環境下で働かされている移民労働者の女性たちを、無事に母国に帰国できるようにすることです。具体的な事例ですか?今、思い出したのは、2名の女性の明暗が分かれたケースです。

1人目は、雇用主から身体的虐待を受けていた女性です。彼女からSNSで送られた写真や音声から、明らかにひどい暴力を受けていたことが分かったので、警察に通報し、介入を依頼しました。しかし、残念ながら、警察の介入はうまくいかず、その後、その女性とは連絡が取れなくなりました。こうしたケースはとても少ないのですが、だからこそ記憶に残っています。

もう1人の女性のケースはハッピーエンドのストーリーです。満足に食べることもできず、長時間労働を強いられ悲惨な状況に追い込まれていた彼女が、助けを求めてきました。私たちが介入し、雇用主との交渉をファシリテートしたことで、彼女は無事に帰国することができました。その後、彼女は地元でケーキをデコレーションするビジネスを始めています。その変化はとても感動的です。

「Do Bold」の特徴は、移民家事労働者たちとSNS等を通じてつながり、詳しく情報を収集し、問題だと判断した後は、慎重に雇用主と交渉するところにある。交渉を慎重に行うのは、女性たちの立場を危うくしないためであり、最悪の場合、ポラスさんや「Do Bold」のスタッフが国外退去を命ぜられてしまう可能性もあるからだ。今は、ポラスさんは家族とギリシャに居住を移している。現地にいた時よりも安全に活動をできるようになったそうだ。

社会課題を解決するために重要なデータの役割

また、「Do Bold」では、被害者を直接支援するだけでなく、詳細な情報を集め、データベースを整えることをとても大事にしている。データを示すことで、他の政府や国際機関が問題をより正確に認識し、根本的な課題解決につながっていくと信じているからだ。実際に、活動の成果が実を結びつつある。

私たちは、おそらくオマーンで最大の移民労働者や人身売買に関するデータベースを持っています。これまで知られていなかったり、対処されなかったりしていた情報を集め、 “Freedom for Our Sisters”レポートのような形でデータを公開してきました。そして、最近、私たちが作ったオマーンの移民労働者についてのデータが、米国国務省が毎年作成する人身売買に関する報告書(通称TIPレポート)で取り上げられました。私たちにとって、これは非常に大きな成果です。なぜなら、TIPレポートに取り上げられることで、米国政府がオマーン政府に強く働きかけを行うようになるからです。

「Do Bold」は、中心メンバーが数名のとても小さな組織。にもかかわらず、当事者や関係者と密接につながりながら情報集め、データの整理と発信を地道に続けることで、国や国際組織を動かせる存在になっている。

インタビューの最後に、自分自身にも危険が及ぶ可能性がありながらも、多くの苦難を乗り越えて活動を継続してきたポラスさん自身の原動力について伺った。

たしかに大変なことが多いです。でも、いずれにせよ私は不正義をどうにかしたいと思っていて、私にもできることがある。だから継続しているのだと思います。

今後も活動を続け、そろそろ若い世代にも知識や経験を伝えていきたいと思っています。APUの学生さんたちとも交流できたらいいですね。

難しい状況の中でも、信念を持ち、仲間とつながり、工夫しながら大胆なアイデアを実行(Do Bold)し続ければ社会をより良くしていける。優しく語りかけてくれるポラスさんの存在そのものが、温かな希望のようにも感じられた。

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