【開催責任者: MAHICHI Faezeh准教授 (APS)のレポート】
2019年1月15日(火)、モンテ・カセム教授はAPUに来学し、「Inclusive innovation and Foreign Technology Investment (FTI): Lessons from the Japan- Sri Lanka Innovation Platform (J-SLIP)」と題した講演を行った。本講演は、同大学のFaezeh Mahichi准教授の主導によるもので、立命館アジア太平洋研究センター(RCAPS)主催のセミナーとして実施された。
講演のメイン・テーマは、社会的弱者が直面する喫緊問題の解決に役立つ最先端テクノロジーの使用としてカセム教授が定義した「包括的イノベーション(Inclusive innovation)」であった。カセム教授は、最初に包括的イノベーションの必要性を述べ、次にJ-SLIPと呼ばれるスリランカ政府と日本政府間の共同イニシアチブを具体例として説明し、最後にふたつのケーススタディをとおしてJ-SLIPの初期の成功を紹介した。
最初の包括的イノベーションについては、最近、先進諸国のみならず、多くの新興国家でも活発になっているポピュリズムを踏まえ、破綻した現体制の問題を解決するにあたり「公平、包括、持続可能性」の重要性を強調し、なぜイノベーションが包括的であるべきかを述べた。
次のJ-SLIP (Japan-Sri Lanka Innovation Platform)の取り組みについて、外国直接投資(FDI: Foreign Direct Investment)と外国政策手段(FPI: Foreign Policy Instrument)から外国技術投資(FTI: Foreign Technology Investment)への革命的変化を具体例として紹介した。この新しい開発の視点は、開発の将来が科学技術の社会への統合および国家間の協力を頼りにしていることの認識から生じており、テクノロジーの提供者(テクノロジーの存在)とその受益者(導入の存在)の双方が公正な分配を受け、社会的課題に実際に取り組めるよう、J-SLIPが相互関係を構築している旨を説明した。
続いて、カセム教授は成功裏に実施されている「推進プロジェクト」のふたつの例を説明した。ひとつは、スリランカでは随所で目にする三輪車の改良版エコスマート・モビリティである。この電動の乗り物は、環境に優しいだけでなく、例えば電動三輪車を使った高齢者の食品配達システムといった新規事業の立ち上げなど、新たなビジネス・チャンスをもたらし、一般庶民の福祉を向上させる可能性を持つ。同様に、ふたつ目は、高齢者がより健康的な生活を送るためにテクノロジーがどのように役立っているかに焦点を置くものであった。医療・観光・農業それぞれのセクターをつなぐシステムをとおし、高齢化する人口の医療ニーズは満たされ、さらにメディカル・ツーリズムの利用によって、日本のような先進国が持つ充実した生活保護や保険制度なしでも対応可能となる。
APUの元学長であるカセム教授は、講演をとおして大学には民間企業が提供できない多くのものがあることを強調し、立命館という体制下で働いた経験、特に自身がAPU学長となる決心をしたことなどと結びつけて考察を深めた。本講義の重要ポイントは、好機は逃さず挑戦し、それにより人生において新たな段階に進むことの大切さであった。講演の最後に、カセム教授は人それぞれの多様性とユニークな視点を尊重するよう聴講者に呼びかけた。カセム教授にとって、「多様性を正しく認識することは、APUのミッション」であり、それこそがAPUを他の日本の大学から際立たせるものなのである。