INTERVIEWS
VOL.01
- 御宿ゑびす屋 女将
- 本田 麻也Honda Maya
150年の歴史を誇る御宿が、世界をつなぐ「実家」に
御宿ゑびす屋・本田女将が語る、APU生との25年
150年の歴史を刻む別府・明礬の「御宿ゑびす屋」。そこには、APU開校以来25年間、途切れることなくAPUの国際学生を含む学生たちが集い、女将である本田さんと特別な家族のような関係を築いていると言う。
今回、その御宿ゑびす屋を切り盛りするパワフルな女将 本田さんに話を聞いた。
アルバイト募集から始まった、血縁を超えた25年のつながり
「APU開学当時、APUのアルバイト募集に、知人に誘われて応募したのがきっかけでした。それから25年間、毎年欠かさず留学生を含む学生アルバイトを受け入れています。立地的にも通学途中にあるので通いやすいみたいで、本当にたくさんの学生が旅館と温泉で働いてくれています。」
女将さんの言葉からは、APU生との関わりが“特別な出来事”ではなく、生活に根づいた“日常”であることが伝わってくる。
仕事を教えるだけではない。関係は生活の細部にまで自然に溶け込み、家族とも友人とも違う独特の距離感を育んでいった。
みんなとは本当に仲良くしています。美味しいご飯屋さんを見つけたら一緒に食べに行ったり、普通に友達と遊ぶ感じ。そうそう!恋愛真っ最中だった女の子がいて、彼に渡すお菓子作りを一緒にしたこともあったな。まだ旅館を建て替える前の厨房でね。あれは可愛かったなぁ。」
たくさんの思い出話から、親友、仲間、姉のような存在…言葉一つでは収まらない関係性が見えてくる。そして、その絆は卒業しても途切れない。
「開校から25周年でしょ?卒業生たちが、結婚相手を連れて帰ってきてくれたり、母国の家族を連れてきてくれたり、本当に嬉しい関係が続いています。卒業して何年経っても、別府に帰ってきて『ただいま』って会いに来てくれるのは嬉しい瞬間ですよ。最近は“私の孫”(卒業生のお子さん)に会う機会も増えて。たまらなく幸せです。」
布団の敷き方から日本の所作まで——学び合いで育つ信頼関係
女将として、日本の文化や旅館の流儀を教えることも大切な役割だと言う。
「もちろん女将なので、旅館の仕事は一通り教え込みます。初めは、布団の敷き方だったり、文化が違うから感覚が違って知らないこともあるんだって戸惑ったこともありましたよ。でも、教えていくことも楽しいし、お客様と接する仕事だから、徹底的に伝えました。」
その背景には、単なる指導ではない「あたたかい気持ち」があった。
「私が教えた日本の所作やマナーが役に立ったと、後から報告してくれるんです。日本で結婚する時、嫁入りのご挨拶で相手のご両親にすごく良い印象を持ってもらえた、女将さんのおかげです、って。どこに行っても困らないように――そんな親のような気持ちで教えていたので、それが彼らの人生の役に立っていると知ると、本当によかったなと思います。」
そして女将さんが何より感銘を受けたのは、学生たちの姿勢だった。
ただ“教わる”だけではない。文化も仕事も、自分から深く学ぼうとし、誰かの力になろうと動く。そんな彼らのまっすぐな心が、後に“ある出来事”で大きな形となって表れることになる。
熊本地震で試された絆と、親御さんへの尊敬
特に忘れられないのが、2016年の熊本地震の時の出来事だ。
「あの時は本当にみんなに助けられました。倒壊するほどの被害はなかったけど、温泉のお湯が溜まらないっていう、致命的な被害で。しかもゴールデンウィーク直前でした。みんな交代で、授業が終わると総出で帰り道に駆けつけてくれて、一緒に復旧作業を続けてくれたんです。あの時、あの子たちがいなければ、あんなに早く再開することは叶わなかった。」
震災を共に乗り越えた経験から、いつの間にか結ばれていた固い絆を実感したという。そして、この固い絆は、女将さんが学生の親御さんに抱く尊敬の念とも結びついている。
「みんなコミュニケーション能力も高くて、本当に素晴らしい子たち。よくこんなに素敵に育てたなって、親御さんたちを本当に尊敬するんです。そもそも、留学に送り出している時点で素晴らしい親御さんだなと思うし、この別府の街に大切な我が子を預けてくれて感謝だなと思います。それを感じるからこそ、私も彼らをすごく大事に思う気持ちが自然と強くなるんですよ。」
APU生たちにとっての“第二の故郷”、女将と地熱の街
還暦を機にバイオリンを習い始めるなど、常にアクティブでパワフルな女将さん。
そのエネルギーは一体どこから湧いてくるのか尋ねた。
「止まらずにいろんなことにチャレンジするところは、APUの学生たちとちょっと似ているところかもしれない。やっぱり彼らから受けている影響は大きいですよ。」
そして、そのエネルギーの源は、この土地の持つ特性にもあると言う。
「あとは、地熱!こういう熱的なものがこの別府の地にはあるから、みんな別府が大好きで、仲良く楽しく生活していて、助け合いながらハッピーに生きてると思うんです。よく考えたら、これほど人と人の関係が温度を持って根づいている土地は、別府以外にはそう多くないかもしれない。」
女将さんはこの御宿ゑびす屋を、「いつでも帰ってこられる“第二の故郷(ふるさと)・実家”のような場所でありたい」と語る。
「ずっとここを守っていきたいなと思ってる。だからいつでも帰ってきてね!」
地熱のように温かく、尽きることのない女将さんの想いとエール。その温もりは、別府で学ぶ学生たちの支えとなり、巣立った後も“安心して帰れる場所”としてこれからもここに灯り続けていく。
※取材は2025年11月13日に行いました。掲載されている肩書や所属は、当時のものです。
Profile

- 御宿ゑびす屋 女将
- 本田 麻也
明治7年創業、150年以上の歴史を歩む、別府明礬温泉「御宿ゑびす屋」女将。
現代人が求める癒しを追求し、宿では、ガスを使わない伝統的な「地獄釜」調理や温泉床暖房など、地域の自然エネルギーを活かした取り組みを実践。これまでロータリークラブ会長を務めるなど、多方面で温泉地の魅力を広く発信している。
御宿ゑびす屋・湯屋えびす(http://www.e-ebisu.biz/)
〒874-0843 大分県別府市明礬4組(GoogleMap )