主催:立命館アジア太平洋大学、読売新聞西部本社
共催:九州国立博物館
 11月15日(水)、APUで『アジア太平洋海域シンポジウム』が開催されました。アジアのドキュメンタリーフィルムの上映に続き、5名のパネリストの方々によってディスカッションされたのは、アジアの海域交流の歴史をたどるという、学術的にも貴重かつユニークな内容。出席したAPUの学生や一般の参加者からは「専門的な考えや視点を知る良いきっかけになった」「日本は海で隔てられている部分がクローズアップされがちだが、海に囲まれているからこそ流れ着いた文化や風習がある点が分かり、興味深かった」という意見が寄せられました。翌日は九州国立博物館の見学も行われ、海で結ばれたアジアを多角的に学べる、充実したシンポジウムとなりました。


フィルム上映

 午前中は、アジア太平洋学部の市岡康子教授がディレクターを務められた2作品のフィルムが上映されました。
  「鵜飼のふるさと」は中国白族と日本の鵜飼や祭事の共通点からアジアと日本の歴史をたどる内容、「黒潮のカミに会いに行く」は「来訪神の信仰が黒潮の流れに沿って分布している」という仮説を考察したドキュメンタリーフィルムでした。

【作品名】

「鵜飼のふるさと 雲南
 —白族の楽園」
1981年
ディレクター/市岡 康子
プロデューサー/牛山 純一

「黒潮のカミに会いに行く
 —アジア太平洋 仮面の島々」

1991年
ディレクター/杉山 忠夫・市岡 康子
プロデューサー/牛山 純一






基調報告
パネルディスカッション


 パネリストの先生方の各専門分野における基調報告から始まった午後のプログラム。「時間と空間を広げてアジアを考える」という開催の趣旨のもと、先生方の長い研究生活や経験で得られた成果が一堂に披露されると共に、実証的で刺激的な討論が展開され、参加者はアジアの海上交流の歴史を様々な観点から考察することができました。
  基調報告では、翌日に、九州国立博物館で実物を見学する媽祖神が、海を渡る船にとってどのような存在であったかなど、それぞれの研究分野を写真や地図を多く用いて、APU学生や一般の参加者にも分かりやすく紹介されました。
  その後のパネルディスカッションでは「“銀”をめぐる自由競争時代が現代のマネーゲームにつながるものを感じる」という、身近な視点からの見解も述べられました。
  特に話題となった「国を閉じるか開くか」については、16世紀にヨーロッパ人が東南アジアに渡来し様々な影響をもたらしたことを例に、「相互理解のない状態では、秩序を破壊してしまうことになる」「自分を知り、相手を知ることが大切」と、国や地域が相互に交流する際の重要な指針が示されました。
  さらに「長い目で見ると国を開くことは必要」「世界から孤立してはいけない」という意見から「そこで大切なものは何か?」という討論につながり、「地域の特性やアイデンティティをどうやって両立させるかが大切」「ある文化と別の文化が交わることは怖い事のようでもあるが、いかに普遍的なものであっても、伝わる先の土地の文化という着物を着て初めて根付く。ヨーロッパの文化をまとったままアジアに入っては来ない。アジアの着物を身に付けられれば浸透し、そうでなければ失敗する。」という今日のグローバリゼーションにおける問題なども示唆されました。
  「文化は西から」と言われる中、あらゆる海につながるこの別府。その海を臨みながら、APU生はこれからを見つめ、頑張って勉強して欲しい、とパネリストから期待の声もいただき、ディスカッションは大盛況のうちに幕を閉じました。
 



 
パネリスト・基調報告内容
(上段左から)
福井 捷朗
(立命館アジア太平洋大学教授)

「アジアと海、ユーラシアと海」
新田 栄治
(鹿児島大学教授)

「ものが語る海上交流」
蓮田 隆志
(大阪大学21世紀COEプログラム特任研究員)

「海が閉じるとき、海が開くとき
ー海から見るアジアとそのダイナミズムー」
楠井 隆志
(九州国立博物館主任研究員)

「中国の海洋神と『海の神々』」
甲斐 大策
(作家・画家)

「移動系と定住系」
コーディネーター
板橋 旺爾
(読売新聞西部本社編集委員)




九州国立博物館見学

 シンポジウムの翌日、35名の学生が九州国立博物館を見学しました。まずは文化財課長の臺信祐爾(だいのぶゆうじ)氏よりお話を伺いました。日本で4つ目の国立博物館が太宰府に建てられたのは、古く九州全域の政治の中心「遠の朝廷」として栄えた場所だからという歴史的背景が紹介され、学生は常設展示と開館1周年記念特別展『海の神々‐捧げられた宝物‐』の解説に耳を傾けました。その後、学生は展示品を熱心に鑑賞していました。

HAMRAKULOV Shohruhmirzo
(APS3回生、 ウズベキスタン)


  国立博物館はすごく大きいですね。展示物を見て、昔の生活を想像し貴重な経験を得ました。そして、ここにある展示の数々は、海域シンポジウムで話されていたような、長い時代の様々な文化や交流の積み重ねだと思います。これからもそうやって交流を積み重ねていくことによって、アジアは経済的にも文化的にもどんどん発展していくでしょう。僕も、アジアの人間として、東西の懸け橋となりアジアに貢献していきたいです。
 

  是國由帆
(APS2回生、日本)


 国立博物館は想像以上でした!前日のシンポジウムで古代から現代の海を渡る文化の話や、媽祖神について学んだ後に実物を見たので、いかに命がけで海を行き来していたかが読み取れたし、理解が深まりました。その命がけの結果が多文化な社会を作り上げ、今のAPUもあるのだと実感しました。どう世界に結びつけていくかが私のこれからのテーマです。




<シンポジウム/
       コンファレンス>
アジア太平洋海域シンポジウム
〜海が結ぶアジア〜
2006立命館アジア太平洋大学コンファレンス-
アジア太平洋地域における国際移動
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