鄭 鍾熙(チョン ジョンヒ) | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

誰一人取り残さない外国語教育をUDLで実現

カテゴリー :

教育方法論教育政策外国語教育
#学びのユニバーサルデザイン(UDL)#インクルーシブ教育#カリキュラムの障害

概要

学びのユニバーサルデザイン(UDL)を言語教育に応用し、多様な特性を持つ学習者の可能性を最大限に引き出す。

「学びのユニバーサルデザイン(UDL)」は、全ての学習者に効果的な学習環境を提供するための教育フレームワークです。なぜ学ぶのか(やる気)、何を学ぶのか(理解)、どのように学ぶのか(行動と表出)という3つの主原則に沿って構成され、学習者を“誰一人取り残さない”ことを目標としています。これまで、主に特別支援教育や初等・中等教育で実践研究が行われてきましたが、高等教育、特に言語教育分野での実践例は限られています。
しかし、今日の高等教育機関における言語教育は、学習者の母語や文化的背景、学習到達度など、特性の多様化が進み、従来の画一的な教育手法では個々の学習者のニーズに十分に応えることができず、学習効果を最大限に引き出すことが難しい状況にあります。そうした流れは今後、外国人留学生の増加、入学試験の多様化などの要因により、さらに加速すると予想されます。
本研究では、UDLを大学での韓国語教育に応用し、多様な学習者の特性に対応した教育方法の開発と実践研究を行おうとしています。APUという、日本の大学ではまれに見る多言語・多文化環境での実践を通じ、学習者一人ひとりの可能性を最大限に引き出す外国語教育の実現を目指しています。
また、その研究成果をもとに、APUにとどまらず広く韓国語教育の分野で、さらに将来的にはより広く外国語教育の分野で、多くの学習者のための学習環境・カリキュラム改善につなげていくことを構想しています。

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※参照:Universal Design for Learningについて (Center for Applied Special Technology, 2025)

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「学びのユニバーサルデザイン(UDL)」に基づき、3つのテーマから考えることで、より良い外国語学習が実現できる。

新規性・独自性

高等教育機関の言語教育におけるUDL応用。その先駆的な実践研究を行う。

本研究の最大の特徴は、これまで主に初等・中等教育で活用されてきたUDLを、高等教育の言語教育、外国語学習に応用すること。しかも、まずは韓国語教室という、これまでUDLを導入した例の見られない教育において実践することです。
近年、中学・高校の外国語教育においては、“従来型の全員一律で対応させようとする指導やカリキュラムではなく、学習者の特性に寄り添った教育が必要”という認識が進み、UDLをベースとした教育も実践されていますが、大学などの高等教育では、まだその必要性が十分に認識されていません。背景には、UDLの対象となるのはLD(学習障害)を持つ学習者だけだという誤解が少なくないことや、高等教育機関ではカリキュラムも学習成果の管理も教員の裁量で決定される場合が多いことなどがあります。
しかし、高等教育機関において、母語や文化的背景、入学時の言語能力差など、学習者の特性は多様化しています。例えば、本研究の代表者が担当するAPUの韓国語教室は、定員25名の半数以上を占める外国人留学生が、17の異なる母語を持ち、メタ言語が存在しないという環境です。そうした環境で、学生の外国語学習の効果を高めるための試行錯誤を重ねる中で、本研究のUDLの導入と実践が始まりました。
本研究では、「十分な学業達成が実現されないのは、学習者ではなくカリキュラムに問題がある」というUDLの理念に基づき、従来の高等教育における言語教育を根本から見直して、平等で公平な学習の機会をすべての学習者に提供しようとしています。
APUの韓国語教室は一見、特殊に見えます。しかしそれは、今後さらなるグローバル化・多様化が進む日本の高等教育、ひいては日本社会の将来像だともいえます。そうした環境で行われる本研究は、これからの言語教育における一つの重要なモデルケースとなっていくはずです。

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研究代表者 鄭鍾熙の2025年の著書『Kスタート! できる・つながるコミュニケーション韓国語入門』(白水社)。UDLの考え方に基づいて構成された、初めての韓国語の教科書。今後、この教科書を用いた授業を行い、実践研究を重ねる予定。

社会連携に向けて

高等教育における言語教育をより良いものにするため、多方面との連携を目指す。

本研究の成果を社会に広く還元し、より多くの現場でUDLに基づく言語教育を実現していくために、幅広い連携を構想しています。
まず、重要なのは言語教育者との連携です。高等教育機関における言語教育にUDLを導入する試みは、まだスタートしたばかりです。今後、言語教育に携わるさまざまな教員・研究者と、UDLに基づいた韓国語教育の設計や、カリキュラムの策定、教材の構成などで協働し、それらによる学習効果を共同研究することなどが考えられます。そうした活動を通じて、高等教育機関における外国語教育に新しいスタイルを確立し、さらには、教員向けの研修プログラムを通じて、教育現場での実践的な展開を支援することも目指します。
企業との連携においては、学習者の多様なニーズに対応できる新しい教材・教具の共同開発が考えられます。現在、小中学校向けの支援教材は充実していますが、大学生向けの教材は十分とは言えません。今後、UDLの考え方に基づいた高等教育向けのデジタル教材や学習支援システムの開発は必ず求められるでしょう。教材・教具メーカーの経験と、本研究の知見を組み合わせることで、より効果的な学習支援ツールの開発が可能になると考えています。
行政機関との連携では、特に各県の教育センターとの協力関係を構築し、地域の外国人支援センターとも連携することで、UDLの理念に基づく言語教育支援の輪を広げていきたいと考えています。
大学においては今後、現在一部の国立大学で行われている学習支援の知見を生かしながら、私立大学も含めたより多くの大学で、学習支援体制を整えることが必要になるでしょう。そこにも本研究の知見を活かしていくことができるはずです。

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※参照:Universal Design for Learningについて (Center for Applied Special Technology, 2025)

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広く産学官との連携を行うことで、誰一人取り残さない外国語教育を目指すことを構想している。

関連研究

UDL理論に基づくインクルーシブ授業の開発に関する事例研究:立命館アジア太平洋大学の 1回生演習科目と必修言語科目を対象に

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研究代表者
鄭 鍾熙(チョン ジョンヒ)
鄭 鍾熙(チョン ジョンヒ)
JUNG Jonghee チョン ジョンヒ
立命館アジア太平洋大学
言語教育センター 准教授

韓国で生まれ育った私は、高校生の時に日本文化好きが高じて日本語を学び、大学で日本に留学しました。日本語を学ぶ過程で、新しい言語を学ぶことが単なるコミュニケーションツールの獲得以上の意味を持つことを実感しました。言語学習を通じて、新しい自分、新しい世界との出会いが生まれたのです。その喜びを、一人でも多くの学生に味わってもらいたいと思い、日本で韓国語の教育者となる道を選びました。
現在の言語教育では、学習者一人ひとりの可能性を十分に引き出すことが、まだまだ不十分だと感じています。UDLの考え方は、この課題に対する重要な解決策となり得ます。APUという多様な環境での実践を通じて、すべての学習者が自分に合った方法で学び、新しい世界に出会うことのできる言語教育の実現を目指していきます。

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