大学語学教育に新しいインクルーシブの波を。
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概要
「学びのユニバーサルデザイン(UDL)」を活用し、大学教育で多様な学生に寄り添う授業づくりに挑戦する。
大学の教室では、発達障がいや身体障がいを持つ学生、病弱・虚弱を持つ学生など、さまざまな特性を持つ学習者が学んでいます。大学における障がいを持つ学生の在籍率は上昇していると言われています。さらに、APUでは、外国人留学生が過半数を占めることから多言語の外国語話者、文化的背景の違いといった多様性・特性が加わります。
研究代表者は、APUの語学教員として教室に立つ中で、そうした多様な学生一人ひとりに対して、より良い授業を提供したいという思いから「学びのユニバーサルデザイン」(Universal Design for Learning: UDL)を採用した実践研究の取り組みを始めました。
UDLは、学習に関する神経科学と認知科学の知見に基づき、多様な学習者が共に学べる授業をデザインするための理論的枠組みです。特別な支援が必要な学生だけでなく、すべての学生にとって学びやすい環境づくりを目指しています。日本では小・中学校、高等学校ではさまざまな実践研究の例があるものの、大学などの高等教育においては多くの実践があるとは言えない状況です。
現在、担当する英語科目を対象にUDLの理論を応用した授業改善を実践しています。学生の特性に応じた学習方法の選択肢の提供や、学生とのコミュニケーションチャネルの多様化など、具体的な手法の開発と効果検証を進めています。今後、先行する実践例を持つ小・中・高との連携や、模索を始めている他大学との連携によって、研究を加速させることを目指しています。
新規性・独自性
大学教育ではほとんど前例のないUDLによる語学の実践研究で、新しい道を切り開く。
本研究の代表者は、APUの英語教育副主任として、さまざまな学生の相談に応じる中で、見えない形での困りごとを抱える学生が増えていることを肌で感じています。また、そうした中で個々の学生との対話の重要性も実感しています。より良いクラス設計をしたい、より学習者中心の教育をしなければならないという思いから、この研究は始まりました。
UDLについて学び始めてみると、実は既に実践していた方法も多くあることに気づきました。一方で、ガイドラインに沿って実践する中で、理論をそのまま適用するだけではうまくいかない場合が少なくないことも分かってきました。大学教育ではUDLによる語学の実践研究自体がまだ少ないため、そうした試行錯誤で得られる知見は、すべて本研究の新規性・独自性であるといえるでしょう。
本研究のバックグラウンドには、研究代表者がこれまで取り組んできた幅広い実践研究があります。自律的学習者の育成に関する実践研究や、APUの入学前教育での取り組み、さらには海外留学の効果に関する研究など、多角的な視点から語学教育に取り組んできました。また、大分県の高校英語教育との関わりや、スーパーサイエンスハイスクールでの授業観察、県の教育機関の第三者評価委員としての活動など、初等中等教育との接点でも活動をしてきました。
そうした多角的な経験や実践研究による知見を注ぎ、また、APUならではの多言語・多文化環境を活かしながら、さまざまな背景を持つ学生が共に学び合える授業づくりに取り組んでいます。この実践を通じて、大学の語学教育におけるUDLの可能性を広げていきたいと考えています。
関連研究
UDL理論に基づくインクルーシブ授業の開発に関する事例研究 -大学の必修英語科目を対象に- 英語教育ユニバーサルデザイン研究学会(AUDELL) 第4回研究大会予稿 28-28頁 (共著)
研究代表者

BERGER Maiko
言語教育センター 准教授
当ページの内容をPDF1ページにまとめたサマリーを、こちらから表示し、プリントすることができます。
私は長年、APUという多様性に富んだ環境で、英語副主任や学生主任、障がい学生支援委員として、さまざまな困りごとを抱える学生と接してきました。中には自分でも困りごとを認識できていない学生や、自己擁護のできない学生もいます。一人のディスレクシアの学生に対応できたからといって、次の学生にも同じ対応でうまくいくわけではありません。自分たち教員の力不足を痛感させられることも、たびたびあります。そうした経験から、個別の対応だけではなく、教育環境全体を、よりインクルーシブなものにしていく必要性を強く感じています。
まだまだ試行錯誤の連続ですが、一人ひとりの学生が自分らしく学べる場をつくっていくために、UDLを通した実践から、新しい可能性を探っていきたいと考えています。
立命館アジア太平洋大学 教員紹介
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