サステイナブルな観光の見方を変える。
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概要
「マルチスピーシーズ・サステイナビリティ」の視点から人と人間以外の種が共に生きるサステイナブルな観光を考える。
本研究は、人と動物との関係が観光を通じてどのように変化するかを考えるものです。特に日本における野生動物と観光の関係性、また、その持続可能性を中心に研究を進めています。
野生動物との出会いを目的とした観光は、ワイルドライフツーリズムと呼ばれます。(広義にはスポーツフィッシングなど動物を消費する観光を含む場合もありますが、ここでは非消費型、すなわち観察するだけのワイルドライフツーリズムを扱います)これまでは、サバンナへライオンやキリンを見に行くツアーや、ホエールウォッチングなど、大自然の中にいる希少な野生動物を観察する行為が代表例とされていました。しかし近年、そうした従来の枠では捉えられないような多様化や変化が起こっています。
特筆すべきは、SNSなどの影響により、予期せぬ場所に観光客が殺到するケースの増加です。広島県大久野島の「ウサギ島」観光はその典型例で、SNSで拡散された情報をきっかけに世界中から観光客が押し寄せるようになりました。日本には他にも、いくつものネコ島があり、海外には野良ブタを目当てにする観光地も生まれています。これらはいわば「観光客が主導して作り出したワイルドライフツーリズム」だといえます。ワイルドライフ・ツーリズム研究の視点からみると、この現象は非常に興味深いといえます。何故なら、ウサギやネコに会いに行く観光は、従来のワイルドライフ・ツーリズムとは異なり、希少動物ではなく身近な動物が観光客を惹きつけている点に特徴があるからです。ウサギやネコなどの身近な動物を見に行くという行動に人々が求めるものは何かを研究することは、サステイナブルなワイルドライフ・ツーリズムの観点から観光客のニーズを理解する上で重要です。本研究では、このように多様化・変化する人と動物、そして観光の関係について分析し、その管理や持続可能性に関する課題について知見を深めています。さらに最近では、人間と人間以外の種の相互関係を重視するマルチスピーシーズというアプローチがサステイナブルな観光の実践においてどのような可能性を持つのかについても研究をしています。

人と動物と観光の関係は多様化している。例えば、広島県大久野島では、SNSをきっかけに国内外からの観光客が野良ウサギを見に国内外から押し寄せている。
新規性・独自性
学際的なバックグラウンドから、新しい視座で観光研究に取り組む。
本研究の独自性は、研究代表者の学際的なバックグラウンドに根ざしています。学士課程では人類学、生態学を専攻し、修士課程では、民族霊長類学に興味を持って中国でのサル観光を研究。その後の博士課程では、広島県宮島と鹿児島県屋久島で、人と動物の関係が観光によってどのように変化するかを地理学的視点から研究してきました。このように、いくつもの分野をまたぎながら、多角的な視点で研究を進めています。
こうした分野をまたいだ学際性を背景に、現在は、「マルチスピーシーズ」の視座からサステイナブルな観光のあり方を考える研究を進めています。マルチスピーシーズとは、人間中心の視点を超えて、人間とさまざまな生きものが互いに影響を与えながら世界を形づくっているという考え方で、複数の生物種との共生を考えるものです。また、Büscher&Fletcherが唱したConvivial Conservation(共生型保全)の概念が人間と人間以外の種の共存を促進する方法となり得るかについても可能性を探っています。Convivial Conservationの考え方の一つとして、日常生活の中で身近な自然を尊重し、自然との共存を図ることが挙げられます。この概念の応用可能性について、大分県佐伯市で実施されているムササビ観察ツアーなどを事例に取り上げ、調査を進めています。
関連研究
日英におけるConvivial Conservation(共生型保全)パラダイムの検討
Feral animals as a tourism attraction: characterizing tourists' experiences with rabbits on Ōkunoshima Island in Hiroshima, Japan
研究代表者

USUI Rie
サステイナビリティ観光学部 准教授
当ページの内容をPDF1ページにまとめたサマリーを、こちらから表示し、プリントすることができます。
私の現在の研究の出発点の一つは、生まれ育った広島県で、人と共存する宮島の鹿を身近に見てきたことです。幸いなことに博士課程では宮島の鹿と人の相互関係について研究する機会に恵まれましたが、観光の開発に伴い、人と鹿の関係は大きく変化してきました。
もちろん、鹿に限らず、現代の観光という現象は、さまざまな動物に変化や適応を余儀なくさせています。「もし、動物も観光管理の方針を議論する会議に参加したら、彼らは何を訴えるだろうか?」そんな問いを日々考えながら、その答えに一歩でも近づくことを目指して研究を進めています。
現代社会では、観光という文脈での出会いが、新たな関係を生み出す重要な契機になっていると感じています。これからも、動物を対象とする観光地でのさまざまなアクターとの対話を通じて、人と動物と観光の新しい関係を探っていきたいと考えています。
立命館アジア太平洋大学 教員紹介
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