従業員の幸福がホスピタリティの未来を開く。
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概要
観光・ホスピタリティ産業を支える“内側”に着目。従業員のウェルビーイング研究で、持続的発展に貢献。
観光・ホスピタリティ産業は、観光立国を目指す日本の成長戦略の重要な柱です。しかし、特に近年では、インバウンド需要の回復に伴う人手不足が深刻化し、従業員の労働時間や環境に関する課題も顕在化しています。また、国内の労働力だけでは賄えないため外国人労働者の受け入れが進み、多様な文化背景を持つ従業員が働く“ハイブリッドな職場”がこれまでになく生まれています。そうした観光・ホスピタリティの従業員の仕事は、感情労働を含む心身にかかるストレスが非常に大きく、これらは心身の健康に影響を及ぼすにも関わらず、サービス品質や顧客満足度に直結して企業の経営を左右するほどの重要性を持ちます。従業員一人一人が心理的・身体的に健康で、社会的幸福も感じながら生き生きと働ける環境を、どのように作り出すか。そのことが、産業の持続的発展にとって重要な課題となっています。
ところが、こうした課題は、特に日本では往々にして軽視され、対応が後回しにされてきました。本研究は、これまで研究対象になることが少なかったホスピタリティ産業における「従業員のウェルビーイング」に焦点を当て、いわば産業を支える“内側”を研究しようとするものです。職場のストレス要因や回復メカニズム、それらに影響を与える要因を、科学的な手法で明らかにし、さらにその知見をもとに、実践的な職場環境の改善策を提案し、観光・ホスピタリティ産業の持続的発展に貢献しようとしています。
ホスピタリティ産業の仕事における個人、グループ、組織レベルでのストレス要因、リソース、実践の関係性。本研究では、これまで明らかにされていない、これらの関係性を解き明かそうとしている(関連研究①)。
新規性・独自性
ホスピタリティ産業の持続可能性を従業員から解き明かす、ユニークな研究アプローチ。
ホスピタリティ産業の研究において、マーケティング領域からは、これまで数多くの研究が行われてきました。本研究はそれらとは異なり「従業員のウェルビーイング」という、いわば産業の“内側”に光を当てることで、独自の研究領域を切り開こうとしています。
その中核となるのは、組織内部の従業員の状態に関する実証的研究です。これまで、データ収集の困難さや科学的分析の難しさから、あまり研究されてこなかったこの領域に、本研究は果敢に取り組んでいます。日本、オーストラリア、スコットランドの3カ国の研究者の視点より、文化的背景の異なる環境下での従業員のウェルビーイングの実態を明らかにしようとしています。
さらに本研究は、従業員の休憩の実態や休憩室の役割など、具体的な職場環境要因が従業員の心理・生理学的回復に与える影響を分析しています。これらにより、実践的な職場環境改善につながる知見の提供を目指しています。
従業員のウェルビーイングについて、日本における先行研究はほとんど見られません。世界的に見ても、近年になってようやく心理学や社会学の領域からの研究が散見されますが、包括的な研究は未だ行われていないようです。本研究のユニークなアプローチは、海外の研究者や学会からも注目されています。
ホスピタリティ業界で顧客対応をする従業員の、休憩時間中の回復についての分析。
▲印は、この研究の分析から浮かび上がった新しい回復体験を示している(関連研究②)。
関連研究
関連研究①
Well-being of hospitality employees: A systematic literature review
International Journal of Hospitality Management
関連研究②
Fostering employee well-being and workplace recovery in the hospitality industry: The role of supportive break times at work Journal of Hospitality and Tourism Management
研究代表者

SAITO Hiroaki
国際経営学部 准教授
当ページの内容をPDF1ページにまとめたサマリーを、こちらから表示し、プリントすることができます。
私がこの研究を始めたきっかけは、留学先のオーストラリアでの経験でした。観光大国オーストラリアでは、観光・ホスピタリティ産業が基幹産業の地域が多く見られ、そこで働く多様な従業員の姿を見る機会がありました。
また一方で私は、日本人の感じる幸福度が世界の中で著しく低いこと、すなわち、ハッピーに働いている人が少ないことが気になっていました。
そこで、観光・ホスピタリティという将来的にも重要な産業を、従業員のウェルビーイングという面から研究し、有益な知見を提供することで、“人々が心身ともに健康でハッピーに働くことができ、産業も発展していく”という関係づくりに貢献できないかと考えるようになったのです。
この課題は、一朝一夕に解決できるものではないかもしれません。だからこそ、研究への挑み甲斐があります。観光・ホスピタリティに関わる人々のウェルビーイングの実現と、産業の発展を願い、これからも現場での実践を大切にしながら研究を進めていきたいと考えています。
立命館アジア太平洋大学 教員紹介
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