橋本 俊作 | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

組織文化の研究でホテル経営の未来を変える

カテゴリー :

ホテル経営
#ホテル組織#組織文化#従業員満足

概要

「従業員を顧客のように扱う」を具体的な方法論へ。3つの支援で、ホテル組織の持続的成長を実現する。

ホテル産業では、そのサービス品質の大きな部分を、従業員が左右します。優秀な人材の確保と育成は経営上の重要課題であるにもかかわらず、特に日本のホテル産業界において、その解決策が十分に示されてきたとはいえません。
組織の活性化やサービス品質の向上を達成する手法の一つとして、インターナルマーケティング(従業員の満足度を高める、内部組織に対するマーケティング)と、その中核的な概念である「従業員を顧客のように扱う」という言葉が、以前から知られています。しかし、日本のホテル業界では実現不可能な精神論と捉えられることも多く、“本当に実現している事例があるのか”という調査研究や、“どうすればそれが実現できるのか”といった具体的な方法論の検討・研究は、ほとんど行われてきませんでした。
本研究では、その「従業員を顧客のように扱う」を柱とする独自のアプローチで、ホテルマネジメントにおける内部組織活性化の実証的研究を進めています。
これまでに、成長を持続するホテル組織として知られる星野リゾートなどで調査研究を行い、「従業員を顧客のように扱う」という概念が実際に組織文化に定着していること、また、具体的な方法として、従業員への精神面からの「3つの支援」、すなわち1.メンタル支援(カウンセリング)、2.キャリア支援(キャリアカウンセリング)、3.対話による支援が行われていることを明らかにしてきました。さらに今後、他の成長を持続しているホテルにおいても、そうした特徴が現れているのか、国内外のホテルで実証研究をしていきます。
よりよいホテルマネジメントを行うための研究を、これまでにない視点から行い、単なる理論にとどまらず、実践的な変革の方法論として提案したいと考えています。

図

参考文献:Hashimoto, S. (2021). Representation Form of “Treating Employees as Customers” in the Hospitality Organization:
The Case of Hoshino Resorts. Journal of Tourism and Hospitality Management, 9(2), 118-134.

本研究では、成長を持続するホテル組織において、「従業員を顧客のように扱う」ための具体的な方法として、従業員に「精神的な3つの支援」が行われていることを明らかにした。

新規性・独自性

従業員の心理、組織文化の醸成という観点から、ホテル産業の組織活性化を研究。

本研究は、従来のホテルマネジメント研究や組織活性化研究とは異なるユニークな特徴を持ちます。多くの先行研究が、制度やシステムの改革に焦点を当てる中、従業員の心理面に着目し、組織文化の醸成という観点から研究を進めているのです。そのため、観光学、経営学に加え、心理学の領域からの知見も統合する、学際的なアプローチを採っています。
また、研究手法として質的研究法を採用し、現場の声を丹念に拾い上げながら理論構築を行っているのも特徴です。特に修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(修正版 M-GTA)を用いた分析は、実践的な示唆に富む研究成果を生み出しています。
これまでの研究で、成長を持続するホテルにおいて、「従業員を顧客として扱う」という概念が、実際に従業員の支援となっていることを見いだし、その具体的な方法として「精神的な3つの支援」が行われていると明らかにしました。これは本研究の先駆的な成果です。
研究の独自性を高めている要因は、研究代表者自身の経歴・知見にもあります。ホテル業界での実務経験を持ち、現場の課題を深く理解していること。また、英国の大学院でホテルマネジメントを専攻し、国際学会(例えば「EATSA: Euro-Asia Tourism Studies Association」)での交流や、国際会議「SEAMA: Islands Tourism & Hospitality Management」を主催してきたことから、海外の研究者とのネットワークを持ち学術的知見を得やすいこと。さらに、カウンセラー、キャリアカウンセラーとして支援活動も行ってきたことにより、人材支援に関する実践的な視点や発想を持つこと。それらを背景として取り組むことで、本研究は新規性・独自性の高いものになっています。

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参考文献:Heskett, J.L. ら. DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編・訳.(2005).
いかに「サービス」を収益化するか. ダイヤモンド社, 1-34.

サービス・プロフィット・チェーンの流れ(Heskettら,2005)
「従業員を顧客のように扱う」は単なる精神論ではない。Heskettら(1997,2005)は、サービス・プロフィット・チェーンにより、実際に、従業員満足が顧客満足を生み出し、収益に繋がることを明らかにし、従業員満足を高めるために「従業員を顧客のように扱う」ことの重要性を示唆している。

社会連携に向けて

国内外のホテル、研究者と連携して研究を進め、ホテル産業と従業員の未来に貢献する。

本研究は、ホテル産業が直面する人材の課題に対して、また、持続的成長を目指すための内部組織の活性化という課題に対して、独自性の高い実証的な研究により、具体的な方法論を示そうとしています。
そこで、社会連携の可能性として、まず国内外のホテル企業との共同研究が挙げられます。これまでの星野リゾートを初めとする国内外のホテルでの研究成果をもとに、他の成長を持続するホテル組織との比較研究を進めることで、より普遍的な内部組織活性化の方法論を確立することができます。この研究で行われるホテル従業員へのインタビュー分析は、マネジメント層にとって内部組織活性化のための具体的な資料となります。マネジメントの改善などに向けて実践的な示唆を得ることができるでしょう。
また、国内外の研究者との連携を広げることで、ホテルマネジメント研究の活性化にも寄与したいと考えています。研究代表者がチェアマンを務め毎年開催している国際会議「SEAMA‐Islands Tourism & Hospitality Management」も、そうした活動の一環です。これは、国内外の研究者やホテル業界の人々が交流し、新しい知見を共有する貴重な場となっています。
このような活動に注力する背景には、日本のホテル産業の持続的成長と、そこで働く従業員の地位向上に貢献したいという思いがあります。
「従業員を顧客のように扱う」の実現により、ホテルがより働きやすくやりがいのある仕事場となれば、優秀な人材が集まりやすくなり、日本のホテル産業の社会的ステイタスも上がるでしょう。また、ホテルマネジメントに関する研究が盛んになることにも意味があります。欧米や中国・韓国においては、有名大学にホテルマネジメントの学部があり、実際に付属のホテル経営も行いながら研究や人材育成を行っていることが、ホテル産業のステイタスの高さに寄与していると考えられます。日本においても、研究の分野からホテル産業の成長と地位向上に寄与したいと考えています。

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国際学会で基調講演を行う研究代表者。国内外のホテルマネジメント研究者との連携を広げている。

関連研究

Activating Organization by the Concept of Person Centered Approach: The case of Hotel Organization in Japan.
Journal of Global Tourism Research
(ホテル従業員にメンタル面の支援が不可欠であることを指摘し、カウンセリングの概念を導入することが効果的であることを示した研究)

詳細情報・関連リンクはこちら

Representation Form of “Treating Employees as Customers” in the Hospitality Organization: The Case of Hoshino Resorts.
Journal of Tourism and Hospitality Management,
(星野リゾートの従業員に対するインタビュー結果分析と考察から、「従業員を顧客のように扱う」、および、精神的3支援:1.メンタル支援、2.キャリア支援、3.対話による支援、の概念が現れていることを示した研究)

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「従業員を顧客のように扱う」という概念に関する実証的研究

詳細情報・関連リンクはこちら

研究代表者
橋本 俊作
橋本 俊作
HASHIMOTO Shunsaku
立命館アジア太平洋大学
サステイナビリティ観光学部 教授

「従業員を顧客のように扱う」は、制度やシステムでの話ではなく、目に見えない文化の話です。日本では、企業・組織文化の研究において、有名なカリスマ創業者の名言はよく研究され、「創業者の残した企業文化が、今も脈々と流れている」といった話は好まれるのですが、ホテル産業における組織文化に関心を払う人は多くありません。ホテルという“人”に依存する産業においては、組織文化の醸成が最も強力な経営戦略であるはずなのですが、その重要性はなかなか理解されないようです。
ホテル勤務とホテルマネジメント研究を長年続けてきた私にとって、日本のホテル産業と従業員の地位が、諸外国におけるそれと比べて低いことは、たいへん口惜しいことです。この研究が、ホテル産業と従業員の成長と地位向上の一助となることを願っています。

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