ニシャーンタ ギグルワ | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

日本の地方の社会課題にICTと知恵で挑む

カテゴリー :

情報科学社会学教育工学
#地方創生#農業技術の伝承#海外人材#ICT#AI

概要

ICTとAIで、人と人、人と知恵をつなぎ、地方の農業を取り巻く課題に、新しい解決の道を開く。

人口減少や少子高齢化、それに伴う人手不足、後継者不足といった問題が日本全国で起こっています。中でも地方の農業の現場には、それらの問題の多くが重なって表れています。そこではさらに、技術の継承、コミュニティの存続、外国人労働者の就労、耕作放棄地など、多様な問題が存在します。
本研究の代表者は、約25年にわたる日本での生活と研究の中で、こうした課題に関心を持ち続けています。出身国スリランカで農業の経験があることから、情報技術の研究者でありながら、日本の農家との深い交流を重ねてきました。その視点を活かして、単なるデジタル化やICT活用では解決できない、地方の農業の本質的な課題に向き合って研究を続けています。
現在、新たなプロジェクトに、これまで本研究が培ってきたさまざまな分野のノウハウと技術、人脈を投入し、実践研究を始めています。それは、鹿児島県大隅半島を拠点に、人、コミュニティ、農業技術や知恵を、ICTとAIでつなぐ新しい農業の仕組みづくり。そこには、ベテラン農家とスリランカからの若手海外人材、そして地域のZ世代の若者たちが関わっています。
ICTは、そうしたつながりを支える道具として活用されます。ベテラン農家の暗黙知を丁寧にデジタル化し、言語や文化の壁を超えて伝えていく。海外の専門家の知見をリアルタイムで共有し、新しい挑戦を支える。海外人材や若い世代の人材を育成し、安心して農業に取り組める環境を提供する。そのような場面に応じたICTを構築しているのです。
そこでは、70代後半の篤農家が20代の海外人材を“新しい弟子”として迎え入れ、技術や知恵を伝える。また、育った若手人材が耕作放棄地を利用した新たな農園で活動する。そうした場面が、確かな手応えとともに生まれ始めています。
この取り組みは、すでに他地域からも注目され、新たな地域での展開が始まりつつあります。今後、日本の地方のさまざまな社会課題に一筋の光をもたらす地方創生の新しいモデルとして、その可能性が広がっていきます。

写真

センサーとAIが精密農業を支えている。栽培環境をモニタリングし、得られたデータを農家の経験則と照らし合わせながら分析。ベテラン農家の暗黙知をデジタル化し、言語や文化の壁を超えて若い人材に伝えていく。

新規性・独自性

最新技術と知恵を融合させた、新しい地域再生の方法論を生み出す。

本研究の独自性は、ICTの研究開発や導入だけを目的とするのではなく、地域の人々の思いに寄り添いながら、地域に表れているさまざまな社会課題を包括的に解決し、活性化と持続的発展を目指していることにあります。
そのため、ICTの導入は、現場の実情を深く理解した上で行われます。例えば、IoTセンサーによる栽培環境のモニタリングは、ベテラン農家の観察眼を補完するものとして位置づけられ、そこで得られたデータは、農家の経験則と照らし合わせながら分析されます。また、農業技術の継承においても、独自のアプローチを取っています。農業日誌や観測データの分析を通じて、長年の経験に基づく暗黙知を形式知化。それを、言語や文化の壁を超えて共有できる知識として再構築しています。さらに、クラウドソーシングを活用した専門家ネットワークを構築し技術サポートを実現。新規作物の栽培において、海外の専門農家の知見を取り入れることなどを可能にしています。
人材育成の面でも、独自の取り組みを展開しています。海外人材に日本で就労してもらうためのマッチングや育成にICTやAIを活用。定住・継続のカギとなる日本語教育については、日本語教育プラットフォームを、ベンチャー企業と開発。すでに数万人の利用者を獲得し、今後のさらなる成長を目指しています。このプラットフォームを、単なる語学学習にとどまらず、日本の農業文化や技術への理解を深める場としても機能させようとしています。
また、本研究の独自性として、研究代表者がアジアを見渡す視点や行動力を持っていることも挙げられます。日本の地方や農業の課題を、日本だけで考えるのではなく、アジア各国と人材、技術、農作物を交流させることで解決していく。本研究はそんな広がりも持っています。

図

ベンチャー企業と共同開発した日本語教育プラットフォーム「WoW Academy」。日本語教育は、海外人材の定住・就労継続のカギとなるため、海外人材の一人ひとりに合った教育の提供を目指している。

社会連携に向けて

新しい農業と地方創生が、産学官のつながりとICTとAIから生まれてくる。

本研究の成果を社会実装するため、以下のような連携を積極的に進めています。
地域との連携では、鹿児島県大隅半島で、地元農家との深い信頼関係をもとに、スリランカからの農業人材(特定技能 農業)を迎えて実証実験を展開しています。ベテラン農家の技術継承、新規作物の導入、IoTを活用した栽培管理、海外人材の定着サポートなどにICTやAIを活用し、包括的な取り組みを実施しています。
このモデルが、他地域からの注目を集めています。高知県宿毛市では、行政との連携により、新たなプロジェクトを開始。市の基幹作物である文旦や、新規作物としてのイチゴ栽培を中心に、技術と人材の両面からの支援を行う計画を進めています。今後は、こうした取り組みを、さまざまな課題に困っている全国の地域と協力して進めることを目指しています。
ベンチャー企業との連携も既に始まっています。慶應義塾大学発のベンチャー(株)WoW SPACEを通じて、クラウドファンディングによる資金調達や、海外人材の育成・支援を実施。教育コンテンツや人材育成プログラムの開発でも協働しています。
教育機関との連携では、九州大学とはCOIL授業(遠隔授業)を行い農業技術の記録・伝承手法の開発、愛媛大学とは農業分野でのeラーニングシステムや職業教育プログラムの構築を進めようとしています。今後は、高校などとの連携も視野に入れ、若い世代の農業への関心を育む取り組みも計画しています。また、スリランカのペラデニヤ大学、モラトゥワ大学とはICTの技術開発の面で協働しています。

写真

スリランカから「SSW(特定技能)農業」で来日した人材を、ベンチャー企業と連携して育成し雇用している。写真左は鹿児島県鹿屋市のパパイヤ農場でリーダーを務める海外人材。そうした活動のベースには、地元農家との信頼関係に基づいた連携がある(写真右)。

研究代表者
ニシャーンタ ギグルワ
ニシャーンタ ギグルワ
NISHANTHA Giguruwa
立命館アジア太平洋大学
サステイナビリティ観光学部 教授

私が来日したのは、約25年前です。以来、さまざまな社会課題、特に労働社会の課題を、ICTなどの力で解決する仕組みづくりに取り組んできました。
そして、日本での生活の中で出会った農家の方々との交流、そして自身の農業経営の経験から、農業分野で、これまでに培った研究成果や技術、人脈を活かした、新たな実践研究を進めています。
日本の地方には多くの課題がありますが、そこにはまだまだ大きな可能性もあります。私たちの進めている実践研究が、そうした可能性を開くことを願っています。

立命館アジア太平洋大学 教員紹介

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