狩野 英司 | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

公務員の課題解決力向上で日本の行政を変革

カテゴリー :

経営情報学公共政策学
#DX#行政サービス#課題解決#人材育成#地域イノベーション#プロジェクトマネジメント#デジタルガバメント

概要

公的機関の課題解決力を高めるエコシステムを構築し、公務員の人材育成で行政のイノベーションを実現する。

行政機関などの公的機関では、従来の枠を超えた複雑で多様な課題が増加しています。一方で、予算や人員は限られ、厳しさを増しています。従来型の業務改善や単純なデジタル化だけでは、もはや十分な対応が難しい状況であり、その傾向は今後ますます強くなっていくでしょう。これから求められるのは、公的機関の職員一人ひとりが、課題を的確に捉え、創造的に解決できる力を身につけること。すなわち、課題解決の生産性を上げることです。
本研究の代表者は、中央官庁での政策立案、シンクタンクでのコンサルティング、そして(一社)行政情報システム研究所での実践研究という多様な経験を通して、公的機関の職員の課題解決力を高める必要性を感じ、具体的な活動を続けてきました。
そうした課題意識と活動の中から、国・自治体・民間の各方面の協力を得て2025年4月にリリースしたのが、『課題解決ツールボックス -行政の業務・サービス変革のフレームワークと実践事例-』です(以下、『課題解決ツールボックス』)。これは、公的機関の職員が実際の現場で活用できる方法論やフレームワークを、誰もが使える形で提供するプラットフォームです。
このプラットフォームは単なるツールの集合体ではなく、また、研究開発のゴールでもありません。このプラットフォームを介して、現場での実践、効果の検証、新たな手法の開発という循環が生まれ、それが職員の成長を支えていきます。ここから、新たな実践と開発、研究が始まるのです。
本研究が目指すのは、実践と研究が一体となった、新しい形の公的機関職員の人材育成エコシステムづくりです。

『課題解決ツールボックス -行政の業務・サービス変革のフレームワークと実践事例-』のウェブサイト。
写真

課題解決のためのツールや、解決実践事例など、実践を通じて抽出された知見がギッシリと詰まっている。このサイトは、一般社団法人 行政情報システム研究所と立命館アジア太平洋大学(APU)との共同研究により開発・運営されている。

『課題解決ツールボックス』のサイトはこちら

新規性・独自性

公的機関職員の、課題解決のスキルアップと持続的な成長を支える、画期的な取り組み。

公的機関の職員の課題解決を支援する取り組みは、これまでなかったわけではありません。しかし、これまでの取り組みの多くは、事例紹介にとどまりがちでした。“何の課題を解決したか(What)”の紹介はあっても、“どうやって解決したのか(How to)”の考察と共有、そして具体的な“道具”が足りていません。それでは、別の公的機関で実践、再現するのは困難です。
本研究の特徴は、その“どうやって”が『課題解決ツールボックス』というプラットフォームを通じて、フレームワークとして提供されることです。特に注目すべきは、民間企業などで活用されているさまざまな課題解決手法を、公的機関の職員が実践的に活用できる形に再構築していること。例えば、ペルソナ分析やカスタマージャーニーマップといった手法を、行政の業務に合わせてカスタマイズして提供しているのです。
『課題解決ツールボックス』は、従来は断片的に存在していた知識やツールを、職員の成長、課題解決のスキルアップという視点から体系化して一箇所で提供する、画期的な取り組みだといえます。また、ユーザーである公的機関の職員に、“これを使えば実際に課題を解決できる”と実感してもらうことのできる実用的なツールであると同時に、目の前の課題の解決にとどまらず、成長、スキルアップを促すプラットフォームでもあります。
そうしたユニークな特徴は、実務経験から得られた知見と学術的アプローチを組み合わせ、行政職員の成長を実践的に支援する方法論を確立しようとする、本研究の姿勢が生み出したといえるでしょう。

図

『課題解決ツールボックス』に収納されているフレームワークの一つ「行政機関向けジャーニーマップ」。行政職員向けのDX研修やデザイン思考研修での多くの実践を経てブラッシュアップされてきた、有用性の高いツール。

社会連携に向けて

多くの参画を得ることで、公的機関の人材育成を軸とするエコシステムは成長を続ける。

本研究が目指すのは、公的機関の職員の成長を持続的に支援する仕組みづくりです。プラットフォームを核として、実践、研究、教育が有機的に結びつき、互いに高め合う関係を構築しようとしています。
そのために、まず、自治体との実践的な協働が挙げられます。すでにいくつかの自治体とは密接に連携しており、例えば研究代表者が自治体職員向けの研修の中で培った知見が、フレームワークの形となって『課題解決ツールボックス』に入っています。また、コンテンツの多くは公的機関の職員自身によって、もしくは職員との協働を通じて制作された、極めて実践的なものです。
今後、より多くの公的機関にフレームワークを実践してもらい、そのフィードバックを受けて、同ツールボックスを拡充させ、また広く実践してもらう、という循環で、連携を発展させていきたいと考えています。
また、これらの実践から得られた知見は、政策研究としても体系化されます。総務省などの中央省庁やOECDなどの国際機関とも連携しながら、より効果的な人材育成の方法を探求しています。こうして生まれた研究成果は、再びプラットフォームを通じて現場の職員の方々に還元されます。
さらに、このエコシステムには、教育機関としての特徴も活かされています。APUの地元である大分県や日出町などと連携し、自治体職員と大学生が協働で課題解決に取り組んでいます。ここでの経験は、自治体職員の実践的な課題解決の場となり、学生にとっては得がたい学びの場となります。同時に、プラットフォームの改善にも活かされています。
このように、プラットフォームを起点として、公的機関の職員と、それを支える仕組みが、ともに成長を続けていく。それが、この研究の描く未来像です。自治体や中央省庁に加え、より多くの実務家、研究者、教育機関の参画を得ることで、このエコシステムはさらに豊かな可能性を持つはずです。

写真
関連研究

Analysis of Factors Affecting Local Government Officials' Interest in Digital Technology
Procedia Computer Science 2023

詳細情報・関連リンクはこちら

Extracting skills for promoting local government digital transformation (DX) using text generative AI
Procedia Computer Science 2024

詳細情報・関連リンクはこちら

A Bottom-Up Approach to Deriving Digital Competency for Government

詳細情報・関連リンクはこちら

研究代表者
狩野 英司
狩野 英司
KANO Eiji
立命館アジア太平洋大学
サステイナビリティ観光学部 准教授

私は、中央官庁や、その後のシンクタンクや民間企業での業務で、行政のデジタル化・業務改革に長らく携わってきました。その過程で、個々の業務に奔走するだけではなく、しっかりと枠組みを作り、強固な根拠を持つ方法論を打ち立てなければならないと感じ、学術的なアプローチを求めて、大学院に通いながら研究を始め、(一社)行政情報システム研究所でのリサーチ活動を続けるという道を歩んできました。そうした産学官での経験があったからこそ『課題解決ツールボックス』のリリースに至ったと考えています。
現在、大学教員として研究・教育に携わりながら、行政情報システム研究所での活動も続け、実践と研究の両方で活動しています。本研究によるプラットフォームを介して、実務と研究と教育が出会い、新しい知恵が生まれ、それが行政で働く方々の力になっていく。そんな、持続的な学びと成長の場を育てていきたいと考えています。

立命館アジア太平洋大学 教員紹介

researchmap

当ページの内容をPDF1ページにまとめたサマリーを、こちらから表示し、プリントすることができます。

お問い合わせ
立命館アジア太平洋大学 アウトリーチ・リサーチ・オフィス
〒874-8577 大分県別府市十文字原1-1
Tel: 0977-78-1134  Mail: reo@apu.ac.jp