藤田 正典 | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

「失われた30年を取り戻す価値創造に挑む

カテゴリー :

経営学社会システム工学
#イノベーション#スタートアップ#エコシステム#新結合#技術経営#社会ネットワーク分析#メカニズムデザイン

概要

イノベーション・エコシステムを科学的に解明し、多様性と新結合による新たな価値創造に尽力する。

日本が「失われた30年」を取り戻し、再び世界にインパクトを与え貢献するためには、イノベーションの実現による新たな価値の創造が必要です。しかし極めて高度化・複雑化した現代社会で、個人や単一組織の力だけでイノベーションを起こすことは困難になっています。求められているのは、多様な組織や人材が相互に連携・結合し、それぞれの強みを活かしながら新たな価値を共創する「イノベーション・エコシステム」の構築です。
そこで本研究では、個々の人材や組織の観点だけではなく、多様なステークホルダーのネットワークキングによる新たな価値創造という観点から、イノベーション・エコシステムの成功要因の分析とメカニズムの設計、そしてその社会実装に向けた実践的研究に取り組んでいます。
具体的な研究テーマとして、「国や地域ごと、業界ごとのエコシステムの成功失敗の要因に関する研究」や「分野ごとの研究者の学際化・コラボレーションと成功要因との関連性の解明」といったイノベーションのエコシステムやメカニズムに関する研究、また、「日本のスタートアップの評価指標の開発」や「医療研究のための医療データの円滑な提供を促すメカニズムの解明」、「行政・市民・企業などが参加し公益活動を効率・効果的で持続可能とするメカニズムの設計」といった価値創造やイノベーションの創出に関する研究に取り組んでいます。
特に現在は、拠点とするAPUの立地を活かし、九州地方の強みである半導体産業や宇宙産業・農業などを中心にした産学官連携のエコシステム形成、「社会福祉法人 太陽の家」(別府市)および特例子会社との障がい者の社会包摂によるイノベーションの創出についての研究、などに取り組んでいます。
また、研究と実践を通じて得られた知見を、APUの国際色豊かな環境の中で教育にも活かし、次世代のイノベーターの育成にも注力しています。多言語・多文化のAPUはまさにイノベーション創出に適した環境であり、その強みを活用して研究・教育・社会実装の一体的推進を目指しています。

スタートアップ・エコシステムの構造と国際・業界比較研究
図 図
  • (a) ユニコーン企業の企業価値やベンチャーキャピタル(VC)のパフォーマンスを可視化。それらの関係性をネットワーク分析して、成功しているユニコーン企業は巨大なクラスターに集中している構造があることを明らかにした。
  • (b) スタートアップ事業における知識が、VCのユニコーン企業への投資を通して、国際間、業界間で伝播していることを示した。

新規性・独自性

多様性とその結合を科学的に分析し、イノベーション・エコシステムの成功要因を解明。

本研究の独自性は、イノベーション・エコシステムを「多様なステークホルダーのネットワーキングによる価値創造の場」として捉え、その成功要因を複数の研究手法で多角的に分析している点にあります。
研究手法としては、ケーススタディによる質的分析に加え、ソーシャル・ネットワーク分析によるステークホルダー間の関係性の可視化、統計分析による定量的評価、さらにはゲーム理論やメカニズムデザインという経済学的アプローチも取り入れています。それにより、イノベーション・エコシステムの複雑な構造と動態を多面的に解明しています。
例えば、国や地域ごとのスタートアップ・エコシステムの研究では、単に成功事例を紹介するだけでなく、ユニコーン企業とVCの投資関係をネットワーク分析することで、業界間や国際間の知識伝播を可視化し、スタートアップ・エコシステムの構造や特徴と成功要因を明らかにしています。スター研究者に関する研究では、研究者の学際化や所属組織移動を分析することで、研究活動の多様性と研究成果の関係を明らかにし、有望な若手研究者に関する研究では、研究者と共同研究の関係などを分析することで、知識創造におけるコラボレーションの重要性を実証的に示しています。また、障がい者の社会的包摂によってもたらされるイノベーション創出の研究では、障がい者が創出するイノベーションの事例研究だけでなく、これを促すメカニズム設計を目指して研究に取り組んでいます。
このように、マクロとミクロ、質的分析と量的分析を組み合わせた総合的アプローチを行うこと、さらには、分析にとどまらず実現のための制度・メカニズム設計まで見据えることが、本研究の大きな特徴です。

障がい者の社会的包摂がもたらすイノベーション創出の研究
図 図

(a-1) 個人の能力の例 (イメージ図)

図 図

(a-2) 障がい者の支援と能力発揮のモデルの例 (イメージ図)

図

(b) 障がい者の社会的包摂がもたらすイノベーションの創出

  • (a) 障がい者の能力をイノベーションの源泉として捉え直す障がい者の支援と能力発揮の4つのモデル(個人支援モデル、個人支援能力発揮モデル、相互支援モデル、相互支援能力発揮モデル)を提唱。
  • (b) 障がい者を支援の対象とするのではなく、障がい者の社会的包摂がもたらすイノベーション創出のさまざまな事例研究やイノベーション創出を促進させるメカニズムの研究に取り組む。

社会連携に向けて

研究の知見をもとに、産官学連携で新たなイノベーション・エコシステム構築へ。

本研究では、アカデミアと社会や産業界の架け橋になるべく、すべての活動を社会実装へ向けて実践的に行っています。
地域産業との連携では、「半導体産業の成功のためのイノベーション・エコシステム」や「九州地域産業の成功のためのイノベーション・エコシステム」などをテーマとしたワークショップを開催し、産官学の関係者が集う場を創出するなどの活動を進めています。半導体産業においては、大分県LSIクラスター形成推進会議の委員として、半導体産業のエコシステム形成に関わっています。また、宇宙・衛星産業においては、大分県や九州工業大学(九工大)などとの連携により、宇宙・衛星事業の可能性を探る活動を行っています。その一環として九工大とAPUの学生により組織された混成チームは、小型人工衛星の事業計画を策定し、東京大学の「ディープテック起業実践講座」でファイナリストに選出されました。九工大の技術とAPUのビジネスモデル構築を融合させた活動は、今後の指針の一つとなるものです。
研究機関との連携では、東京大学や九州大学などとの共同研究を通じて、メカニズムデザインやネットワーク分析の手法を深化させるとともに、新たな事業の社会実装を目指しています。また、東京大学ではURA(ユニバーシティー・リサーチ・アドミニストレーター)を務め、さまざまな研究活動の社会実装を実践研究する立場も得ています。
教育の面でも、授業に産業界からゲスト講師を招いたり、学生にビジネスや研究の現場でフィールドワークをさせたりすることで、実践的な授業を展開し、学生に価値創造の現場を体験させる機会を提供しています。APUの国際的な学生が九州の地域産業と出会うことで、新たな視点やアイデアが生まれる場を創出しています。今後、九州の各大学や高専などとの連携をさらに強化し、地域産業のイノベーション・エコシステム形成を加速させたいと考えています。
このように、個々と全体、定性と定量などの総合的なアプローチによる分析に加え、実現のための制度やメカニズムの設計まで見据えて、理論と実践をブリッジすることが、本研究の大きな特徴です。
こうした独自性は、研究代表者のバックグラウンドから生まれています。大学で電気工学を専攻した後、総合商社へ。30年以上の実務を通して、ITスタートアップの立ち上げから金属資源開発まで、国内外のさまざまなプロジェクトで産学官のさまざまな立場の人々と協働してきました。並行して経営学を学びMBA取得、東工大で技術経営(MOT)や人工知能、ネットワーク分析などの知識や手法を身につけ、現在は東大でメカニズムデザイン理論を用いた共同研究をしています。学究型の「巨人の肩に乗る」スタイルだけではなく、分野を横断して新たな結合を生み出すそうとする姿勢は、アカデミアに移った今も一貫しており、研究活動の連携先は、産学官のすべてにわたって広がっています。
理論構築と実践活動の両輪を強力に推進する独自の手法で、さまざまなステークホルダーとの多様なネットワーキングを進め、イノベーションの創出に向けて貢献し、世界にインパクトを与えることを目指しています。

写真 (a) 写真 (b)
写真 (c) 写真 (d)

多様な産学官連携による実践的研究を進めている。

  • (a) 別府市に拠点を置く社会福祉法人太陽の家関連の特例子会社からゲスト講師を招いた授業の様子。SDGsに貢献する地元企業とも連携し、ソーシャルインパクトがある実践的な授業を行う一方、これらの企業との共同研究にも取り組む。
  • (b) 「多様なステークホルダーのネットワーキングによる価値創造」をテーマに開催された九州地域産業のイノベーション・エコシステムに関するワークショップの様子。産官学からの参加者が活発に議論を交わし、具体的な連携プロジェクトの種が生まれている。
  • (c) 九工大とAPUの学生混成チームが、東京大学ディープテック起業実践講座のファイナリストとして東京大学の総長に対して小型人工衛星の事業計画のプレゼンを行う様子。九工大の技術力とAPUの経営力を融合させた取り組みは、今後の起業活動の指針的なモデルの一つとなる。
  • (d) 大分空港の近くにある地元企業の現場を視察・体験する様子。学生たちに企業との交流の機会を提供しつつ、産学連携を図る。
関連研究

スター・サイエンティストの多様性に関する研究分野ごとの特徴の分析:研究分野多様性および所属機関多様性の指標を用いて

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研究代表者
藤田 正典
藤田 正典
FUJITA Masanori
立命館アジア太平洋大学
国際経営学部 教授

私は総合商社で長い間、さまざまなプロジェクトに全力で取り組んできましたが、今残っているのは、我々の世代は「失われた30年」を変えることができなかった、という歯がみするような悔しい思いです。
アカデミアに移った今も私は、時間の許す限り全力で活動し続けたいと思っています。目指すのは、ビジネスの経験とアカデミアの知識という両輪を生かし融合した産学官連携によるイノベーション創出。世の中がもっと素敵になるために、人々がもっと幸せになるために、そして次世代の子どもたちにも誇ることのできる何かを残すために、研究活動と社会実装を続けていきたいと考えています。将来が不透明な現代の社会に、経済学者シュンペーターの言った「新結合」により価値を創造し、日本の「失われた30年」を取り戻して世界に貢献したい。その思いが私を突き動かしています。

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