山川 哲史 | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

資産価格の不確実性の下での戦略を提言

カテゴリー :

理論経済学金融論
#マクロ経済学#金融政策#資産価格#ファイナンス#リスク管理

概要

金融市場での実務経験を学術研究に昇華させることで、資産価格変動の下での企業戦略および政策立案を提案。

2013年以降の日本銀行による異次元緩和に代表される実験的な金融政策、そしてコロナ禍や地政学リスクの高まりなどの外部環境の変化などを背景に、金融市場においても、資産価格の変動率(ボラティリティ)が未曽有の高まりを示しています。資産価格形成のメカニズムが根本的に変化、予測困難、かつ非連続な資産価格変動が常態化している今、従来の市場安定を前提とした分析や対応には限界が生じつつあります。企業経営者や政策立案者には、従来の枠組みを超えた新たな理解と対応が求められています(図表1参照)。

例えば、デフレ克服のため日銀が採用した異次元緩和策は、その効果が発現するまでに10年余を要する一方、その政策の効果、帰趨、および政策修正(「正常化」)の過程を巡る不確実性の高まりから金利、為替レートを中心に資産価格形成にも大きな影響を及ぼしています。また、資産価格のボラティリティ上昇が逆に、金融環境の不安定化を通じ、政策の波及効果を減殺する結果となっています(図表2参照)。

本研究の代表者は、日本銀行および外資系投資銀行における豊富な実務経験と理論研究の両面から、この新たな時代における資産価格変動のメカニズムを解明し、企業経営および政策立案に対する実践的な示唆を導き出すことを目指しています。特に、従来の想定を超えるテールリスクの増大に着目し、それに対する危機対応プランの立案に焦点を当てる予定です。

図表1
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図表2
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新規性・独自性

異次元緩和を含むテールリスクに属する政策運営の下での資産価格変動メカニズムの変化を解明する。

本研究の特徴は、主に以下の3点にあります。まず、長年の実務経験に基づく市場に対する理解と理論研究の融合です。研究代表者は、日本銀行、ゴールドマン・サックス証券、バークレイズ・キャピタル証券で、合計約45年間の実務経験を有しています。政策当局と市場の双方での経験・実績は、より実践的、かつ多面的な市場・政策分析を可能にしています。

第二に、異次元の政策運営の下での非連続的な資産価格変動のメカニズムおよびその政策運営に対するフィードバック効果に着目している点です。従来の枠組みでは十分に説明できない市場の変化(資産価格の変動率上昇)を、市場経験と理論的観点から捉え直し、新たな分析の視座を提供します。

第三に、国際比較の視点からの分析です。日銀時代には各種国際会議の開催などを担当、ゴールドマン・サックス証券時代には汎アジア経済調査統括部長を務めるなど、長年にわたって培った国際的な視点に基づき、例えば「日本化」現象の国際的な波及(米国における長期停滞論、中国におけるバランスシート調整を含む構造的デフレおよび金融緩和の無効化など)に着目、主要国における政策対応およびその帰結から得られる示唆を導き出します。

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出典:Justin B. Craig, Ken Moores (2017) Leading Family Business – Best Practices for Long-Term Stewardship. Praeger.

社会連携に向けて

新たな時代における金融リスク管理の在り方を模索、企業経営や政策立案への提言を行う。

研究代表者は、米国ブラウン大学にて経済博士号(Ph.D.)を取得後、長年にわたって金融の最前線で調査分野を中心に実務を積んだあと、2024年より学術界へと転じています。今後は資産価格形成および金融政策を中心とした政策運営の在り方につき、金融市場における経験を基にこれを捉え直すと同時に、企業経営、政策立案に対する実践的な示唆として還元しようとしています。

本研究では、企業の最高経営責任者(CEO)および最高投資・財務責任者(CIO/CFO)、リスク管理者、政策立案者、投資家、また経済学・金融論研究者との具体的な連携を積極的に進めていきたいと考えています。まず企業に対しては、財務・リスク管理戦略の立案を支援します。従来の想定を超えるような、非連続的な資産価格の変動に対して、新たなリスク管理の枠組みを提供することを目指します。特に、危機対応プランの策定では、実務経験に基づく具体的なアドバイスを行うことを念頭に置いています。

政策立案・担当者に対しては、政策効果とその副作用を包括的に分析するフレームワークを提供します。「日本化」現象への各国の対応から得られる示唆など、主要国を対象とした国際比較に基づく教訓、市場構造の変化を前提とした政策運営について具体的な提言が可能です。さらにAIなど新技術が資産価格形成に与える影響についても研究を進めていきます。同分野では、経済学・金融論の研究者にとどまらず情報工学など異分野の研究者との共同研究も歓迎します。国際的な研究ネットワークとの連携も進めており、グローバルな視点からの分析も可能です。

こうした企業戦略・政策に対する提言に関しては、同時に海外への発信も積極的に行います。中でも「日本化」に関する実務経験と研究は、グローバルな市場においても貴重な事例であり、貢献度も高いのではないかと考えます。実務経験と理論研究を組み合わせた本研究が今後生み出していく知見は、最新の金融論として、国内外を問わず幅広い対象に貢献できると確信しています。

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研究代表者
山川 哲史
山川 哲史
YAMAKAWA Tetsufumi
立命館アジア太平洋大学
国際経営学部 教授

私は日本銀行、外資系投資銀行での長年の実務経験において、バブル崩壊から金融危機、異次元緩和から正常化への過程まで、金融市場の劇的な変化を実務家として最前線で見てきました。アカデミアに転じたのは、市場が大きく変質し、従来の理論や経験則が通用しない世界へと移行しつつある中で、経験を理論的に昇華し、実践的な示唆として還元すること、またそれを若い世代にも伝えることが使命だと考えたためです。
実務と理論の架け橋となる研究を通じて、新しい時代における金融市場の理解と、より効果的な対応の在り方を探っていきたいと考えています。

立命館アジア太平洋大学 教員紹介

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