牧野 恵美 | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

組織にイノベーションの力を吹き込む

カテゴリー :

経営学
#起業家教育#イノベーション教育#対話型組織開発#国際的協働プロジェクト

概要

アントレプレナーシップ教育と組織開発の融合で、企業に新たな創造性と成長力をもたらす実践研究。

日本にスタートアップやイノベーションが足りないことが指摘されてからずいぶん経ちます。個人の起業家を育てる活動が必要なのは言うまでもありませんが、同時に、既存の企業からイノベーションを起こすことも重要です。特に日本においては、人財にも技術にも優れた資産を持つ多くの“ものづくり”企業から生まれてくるイノベーションが少ないことが、大きな課題です。
不確実性の高い環境において、企業がイノベーションを生み出し、それを継続していくには、組織がアントレプレナーシップ(起業家精神)の文化を持つことが不可欠です。しかし、日本企業においてそうした文化をどう醸成すればよいのか、具体的な方法論は確立されているとはいえません。
本研究では、アントレプレナーシップ教育と組織開発を融合させた独自の実践研究で、こうした課題に取り組んでいます。
最大の特徴は、“対話”を中心としたアプローチにあります。対話型組織開発手法「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」や「エフェクチュエーション」理論を基盤に、実践的なワークショップなど、さまざまな視点、さまざまな手法を通じて、組織内のアントレプレナーシップを活性化させる方法を開発・実践しています。
こうした活動は、研究代表者のユニークな経験、知見から生まれています。1990年代半ばから2000年代初めにかけて、ジャーナリストとしてアメリカなどで起業家を数多く取材し、そのスピード感や影響力に衝撃を受けました。日本で会議通訳としてスタートアップや大企業の経営を支援したのち、再び渡米。アメリカでMBA・PhDを取得しました。帰国後は、いくつもの大学で起業家教育に携わりながら、地域連携型のプロジェクトや、「アトツギベンチャー」(後継ぎ経営者によるベンチャー型事業承継)の研究、スタートアップのものづくりサポートの仕組みづくりなど、幅広い活動を行ってきました。現在は、APUの国際的環境を活かし、多様な文化的背景を持つ学生たちと企業との協働など、新たな視点からイノベーション創出を支援しています。
「イノベーションは特別な才能ではなく、組織全体で実践を重ねて育む文化である」という信念のもと、企業に新たな創造性と成長力をもたらす協働と実践研究を進めています。

研究代表者が実践研究するアントレプレナーシップ教育の概念図
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新規性・独自性

“対話”と“体験”でアントレプレナーシップを育む、実践的な取り組み。

組織内でアントレプレナーシップを育むには、知識の伝達だけでは不十分です。本研究では、実践と対話を重視した独自のアプローチを開発・実践しています。
本研究の特徴は、料理づくりはじめ、対話をしながら手も動かすプラットフォームを用いたワークショップの手法によく表れています。これらのワークショップでは、参加者が共同作業を通じて対話し、アイデアを形にする過程を体験できます。特にシャープの自動調理器「ホットクック」を活用した研修プログラムは、理論と実践を結びつける効果的な取り組みとなっています。海外で高い評価を得ている、起業家的な思考と行動を学ぶ料理ワークショップを、独自にアレンジしたものです。
「エフェクチュエーション」理論から、「手持ちの資源から始める」などの起業家的思考法を組織開発に応用し、不確実性の高い環境下での意思決定を支援する実践研究も、独自性の高いものです。東京大学 本郷テックガレージやイタリアのファミリービジネスCentro Studi Italianiなど研究代表者の関わる先進的事例の研究も含め、理論と実践の両面からアプローチすることで、新たな知見を生み出しています。
さらに、現在の拠点であるAPUの多文化環境を活かした活動も本研究の特徴です。異なる文化的背景を持つ学生と企業との協働を実現することで、グローバルで多様な視点からイノベーションの種を見いだす機会を創出しようとしています。
これらの取り組みは、従来の座学中心のマネジメント教育や組織開発とは一線を画す、実践的かつ効果的なアプローチだと言えるでしょう。

写真

料理づくりをプラットフォームとしたワークショップを、大学内で開催した際の案内ポスター。こうした、アントレプレナーシップを育む独自のアプローチを開発・実践している。

社会連携に向けて

実践的プログラムの提供で、組織のイノベーション力を高める。

本研究による成果は、さまざまな形で企業や組織の発展に生かすことが可能です。
まず、料理やグッズづくりを通じて学ぶ対話型ワークショップなど、体験から組織内のイノベーションの実践を促す「企業向けアントレプレナーシップ研修プログラム」の提供が挙げられます。このアプローチは、特に、技術力があるものの新規事業や製品の開発に課題を抱える企業に適しており、組織の創造力と社員の行動力を引き出す効果が期待できます。
また、対話型組織開発の手法を用いた「経営者・幹部向け組織変革プログラム」も提供しています。このプログラムでは、「対話」を通じて組織内の創造性を引き出し、新たな事業機会を創出するプロセスを支援します。また、「経営者・幹部向け」においては、これまで本研究では、後継ぎ経営者によるベンチャー型事業承継、いわゆる「アトツギベンチャー」の研究も行い、日本のファミリービジネスに適用可能な変革モデルを構築してきたため、そうした知見からの組織開発支援も可能です。
APUの国際的な教育環境を活かした学生と企業の協働プロジェクトも特徴的な取り組みです。多様な文化的背景を持つ学生たちとの協働を通じて、企業は従来の枠組みにとらわれない新たな視点からのイノベーション創出の機会を得ることができます。
さらに、デジタルファブリケーション技術を活用した「メイカームーブメント」の知見を取り入れ、ものづくりを通じたイノベーション支援も行っています。この取り組みは、文系人財でも技術を活用したイノベーションの創発を支援するもので、より幅広い人財が参加できるため、従来の枠を超えた企業研修などの実施も可能になります。
このように、本研究の実践的アプローチは、起業家を育てるだけではなく、既存企業において「社内起業家(イントラプレナー)」を育成し、多様な人財がそれぞれの強みを活かしながら協働することで組織全体のイノベーション力を高めることを目指しています。

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研究代表者は、学内外で幅広く多彩な活動を行い、研究・実践・教育を融合させている。

関連研究

レガシー企業から起業家的企業への変革:組織開発とベンチャー型事業承継の視座

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研究代表者
牧野 恵美
牧野 恵美
MAKINO Emi
立命館アジア太平洋大学
国際経営学部 准教授

アメリカでジャーナリストとして多くの起業家を取材し、日本の大学でアントレプレナーシップ教育に携わりながら多くの起業家や経営者に会う中で、私は「対話」と「つくる体験」の重要性を痛感してきました。そうした中で、日本企業が既存の強みを活かしながら新たな価値を創造していくためには、組織全体でアントレプレナーシップを育む実践と文化づくりが最も大切で、最も近道でもあると考えています。APUという多文化環境での経験も活かし、企業における対話と創造の場づくりをお手伝いしたいと考えています。
また、近年強く関心を持っているのは、文系人財でもデジタル技術を活用してイノベーションを起こせる環境づくりです。メイカームーブメントの可能性を追求し、組織内イノベーション創出にも活かす新たな形を探求しています。
そうした知見を総合し、文系・理系を問わず誰もが参加できる「創造の場」をつくるのが、私の得意とするところです。アントレプレナーシップとイノベーションの力で、組織と社会の持続的発展に貢献できることを願っています。

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