奥山 亮 | APU 研究シーズ - 立命館アジア太平洋大学

創薬システム研究で日本の創薬力を高める

カテゴリー :

国際経営学薬学
#技術経営#政策立案#イノベーション#アントレプレナーシップ#創薬

概要

世界視野で創薬プロセスや戦略、エコシステムを研究し、その成果で、創薬研究を支援し、政策立案へ貢献する。

日本の創薬の国際競争力は脆弱です。その原因の一つは、新薬のほとんどを既存の大手製薬企業が創製しており、創薬スタートアップが十分育っていないことだと考えられます。
創薬のプロセスでは、多くの時間と資金を必要とし、そのマネジメントには多面的な知識やノウハウ、戦略が求められます。しかし、それらをアカデミア研究者や経験の浅い創薬スタートアップが十分に有することは難しく、創薬プロセスやそのマネジメントに精通したプロフェッショナルによる支援が不可欠です。
世界、特に欧米では、創薬を目指すアカデミア研究者や創薬スタートアップを支えるエコシステム(※)が確立しており、創薬マネジメントに精通したプロフェッショナルが支援を行うことで大きな成果を挙げています。
本研究の代表者は、①世界を視野に創薬マネジメントを研究。その成果や、自らの豊富な知識と経験をもとに、創薬スタートアップや研究者に対して創薬戦略や研究開発プロセスの助言を行い、伴走して支援を行っています。
また同時に、②日本と世界の創薬エコシステムの現状と課題を調査・分析し、官公庁や専門機関、企業などに対して、日本の特色に合った創薬イノベーション・エコシステムの考察と提案を目指しています。

※エコシステム:創薬のスタートアップエコシステムは、アカデミックアントレプレナーや、ビジネス面から参画する起業家、スタートアップで働く研究者などの人材、スタートアップに投資する投資家や連携する既存企業、起業支援施策を立案・実行する国や地方自治体などで構成される。

世界の創薬におけるスタートアップの台頭と、日本の創薬スタートアップの出遅れ
図 図

2017~21年のアメリカ食品医薬品局(FDA)承認新薬を創製した企業の設立年を、日米欧で比較。
米国では新薬の74%を1980年以降設立のスタートアップ・新興企業が創製。一方、日本では100%すべてを1980年以前設立の企業が創製。

新規性・独自性

創薬プロセスやそのマネジメントに精通した、日本では希有なプロフェッショナルとして。

創薬マネジメント研究、エコシステム研究には、医薬品の先進技術の動向や内容についての知識と、経営学的な分析視点・手法の知識の両方が必要ですが、それらを併せ持つ研究者は希有で、先行研究は多くありません。そのことが、日本の創薬において以下のような状況を生んでいます。

  • 中立的な立場から創薬スタートアップや研究者に助言を行い支援することのできる、
    創薬プロセスやそのマネジメントに精通したプロフェッショナルが少ない。

  • 日本の創薬力の弱さの指摘に対して政府や業界が打ってきた対策には、
    弱さの原因を経営学的視点から学術的に解明しようという試みが欠け、抜本的な改善策になってこなかった。

本研究の代表者は、技術経営と薬学の両分野で博士号を有し、製薬企業におけるグローバル研究ヘッドや研究所長といったハイレベルな研究マネジメント経験と、アカデミアにおける創薬イノベーションシステムと医薬品技術マネジメントに関する学術研究経験の両方を有します。日本では希有なプロフェッショナルとして、現在はアカデミアで、創薬マネジメントと創薬イノベーション・エコシステムについて学術研究を続けています。
そうした研究成果や、長年の経験・ノウハウを注ぎ込むことで、創薬研究者やスタートアップに対して、また専門機関や企業に対して、独自性の高い活動を続けています。

社会連携に向けて

日本の創薬力の強化に向け、創薬研究を支援し、「日本版創薬イノベーションシステム」の提案を目指す。

本研究の目指すのは、日本の創薬力の強化です。そのため、研究成果を①創薬スタートアップや研究者の支援、②創薬に関する政策立案への貢献につなげたいと考えています。

  • 創薬のさまざまなステージにおいて、スタートアップや研究者に伴走して支援する。

    創薬には、技術やサイエンスに対する専門性に加え、市場動向や患者ニーズから創薬コンセプトを立案したり、コンセプトを実証するデータを効率的に取得したり、薬効安全性に優れた医薬候補化合物を取得したり、先行医薬品・技術に対する差別化データを取得するなど、研究段階だけでも多面的な知識やノウハウを必要とします。また、臨床開発においては、適した疾患や対象患者層の選定、限られた予算で効率的に開発を進めるための試験プロトコールの設定など、高度な開発戦略が求められます。加えて、後期臨床開発には多額の資金が必要なため、研究や初期臨床段階での他社との共同研究開発や導出等のアライアンス戦略も重要です(図)。
    本研究の代表者は、創薬プロセスやそのマネジメントに精通したプロフェッショナルとして、すでに、創薬を目指すいくつかのスタートアップや大学研究者チームに対して、創薬戦略や研究開発プロセスに関する助言を行い、伴走して支援しています。その支援は実践的で、創薬のさまざまなステージにおいて、幅広い疾患・技術に対応し、具体的な実験内容や委託機関の情報などの内容を含めた支援をすることが可能です。

    図
  • 日本の創薬力を強化する「日本版創薬イノベーションシステム」の提案を目指す。

    新薬研究開発に、欧米だけではなく一部のアジア諸国も参入してきている現在、グローバルで競争力を持つ創薬イノベーションシステムを構築することは、日本にとって喫緊の課題です。
    しかし、日本の創薬の国際競争力の弱さの背景には、日本特有の商習慣や社会慣習、国民意識などの問題があり、他国の成功モデルをそのまま日本に当てはめるのは簡単ではありません。
    日本は、これまでのイノベーションシステムの特色を生かしながら創薬力を高める、いわば「日本版創薬イノベーションシステム」を構築すべきです。この研究から得られる知見は、そうした創薬に関する政策立案などに生かせるものです。
    研究代表者はすでに日本医療研究開発機構(AMED)の活動にも協力しています。今後、政策担当者や専門機関・企業との協働が進むことで、日本の創薬力を強化することに寄与すると考えています。

    創薬スタートアップを支えるエコシステム
    図
関連研究

Chronological Analysis of First-in-Class Drugs Approved from 2011 to 2022: Their Technological Trend and Origin. Pharmaceutics, 2023, Vol.15(7),pp.1794

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Increased contribution of small companies to late-entry drugs: a changing trend in FDA-approved drugs during the 2020s. Drug Discovery Today,2024, Vol.29(2),pp.103866

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(創薬におけるスタートアップの貢献を革新的新薬と改良新薬についてそれぞれ分析し、近年の動向と変化について考察した研究)

Strengthening the Competitiveness of Japan’s Pharmaceutical Industry: Analysis of Country Differences in the Origin of New Drugs and Japan’s Highly Productive Firm. Biological and Pharmaceutical Bulletin, 2023, Vol.46(5),pp.718-724
(創薬で近年比較的高い生産性を示している日本企業の創薬事例を分析し、競争力の源泉と日本企業の取るべき創薬戦略について考察した研究)

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研究代表者
奥山 亮
奥山 亮
OKUYAMA Ryo
立命館アジア太平洋大学
国際経営学部 教授

日本には優れた創薬研究者が大勢おられるにもかかわらず、日本の創薬の国際競争力は脆弱です。ほとんど100%の新薬が大手製薬企業から生まれる日本とは異なり、世界では多くの新薬が大学発ベンチャーから生まれています。私自身、大手製薬企業で長年、創薬に携わってきましたが、そうした世界の状況を見て、一企業に属することの限界を感じ、アカデミアに転じました。以来、“日本の創薬力を高めたい”という思いで、創薬スタートアップや研究者に伴走して支援するとともに、創薬イノベーション・エコシステムの研究と発信を続けています。

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