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2015/12/02

日本銀行前総裁 白川方明氏にインタビュー


2015年10月27日(火)、日本銀行前総裁の白川方明氏がAPUに来学され、「金融グローバル化の下でのお金のコントロール」(“Global Control of Money in the Age of Globalization”)というテーマで講演を行いました。日銀大分支店長からやがて日銀総裁に就任し、現在は大学教授を務める白川氏に、これまでの道のりについて3人の学生広報スタッフ(SPA)が話を伺いました。


1. なぜ経済学の世界に足を踏み入れたのですか?


公共政策の分野で働きたいという明確な願望と単なる偶然とが重なったからだと思います。前者について言えば、私は大学生活を通してずっと経済学に夢中になっていました。経済学の分野で仕事をする決意をしたのは、そうして強い興味を抱いていたからです。しかしその興味を満たすには、学者になるか、政府か中央銀行で働くぐらいしか選択肢はありませんでした。やがて私は日銀で面接を受ける機会を得ました。そこで最初に会った人物がとても立派な方だったため、このような職員がいる組織であれば素晴らしいところに違いないと思い、この出来事をきっかけに日銀への就職を決めました。


2. 日銀大分支店長から日銀総裁になるまでの道のりについて話していただけますか?


1994年5月から1995年12月まで日銀大分支店長を務めた後、ニューヨーク駐在参事に任命されました。ニューヨークには2、3年駐在する予定でしたが、家族の病気のため予定より早く東京に戻ることを決めました。その後、国際決済銀行の委員会議長を務める日銀副総裁の補佐役に任命されました。それまで国際金融に携わったことがなかった私は、この経験によってまさに目を開かされ、この分野の面白さを実感しました。2006年には日銀を退職しましたが、驚いたことに2008年、日銀総裁に任命されました。今になってこれまでの職業人生を振り返ってみると、もし家族の病気のために予定より早く東京に戻っていなければ、総裁に就任する上で非常に重要な要素となった国際金融の仕事に携わることはなかったでしょう。その意味では、これまでに担った役割はすべて偶然の賜でした。だから私はよく自分のことを「偶然の総裁」と呼んでいます(笑)。人生は偶然に満ちています。



3. 現在は青山学院大学で教えていらっしゃいますが、日銀総裁から大学教授への転身はいかがですか?


現在は青山学院大学で2つのコースを教えるかたわら、たびたび海外に行き、中央銀行や大学が主催する国際会議で講演を行っています。今は中央銀行で働いているわけではないので、短期的な問題よりむしろ長期的な視点から中央銀行の幅広い政策課題を考えることに多くの時間を費やしています。日銀を辞めたのは63歳の時でした。もう若くはないけれども年を取りすぎているわけでもありません。この先、自分がどのような人生を送りたいのかじっくり考えました。すると、将来世代に自分の経験を伝えたいという、ぼんやりした思いが湧いてきました。「将来世代」とは、今私が教えている国内外の大学生、中央銀行や政府の若い職員、それに中央銀行の政策に関心のある研究者などです。
人生におけるこの新しい役割は満足感を与えてくれます。


4. 教職と講演の仕事のバランスを取ることは難しくありませんか?


私は自分が面白いと思えない仕事の依頼は受けません。1カ月に1、2度、海外へ飛び、講演や講義を行います。時々、妻を同伴し、講演や講義の仕事が終わった後、興味のある場所に一緒に行くことがあります。例えば、5月にはロンドンで講義をした後、湖水地方を訪れました。こうして生活と仕事を組み合わせれば、最新の問題を注視しながら同時にリラックスすることもでき、とても楽しいです。


5. ご自身の下す決定が世界に影響を及ぼすことについて、どう感じられますか?


確かに中央銀行は多くの重要な決定をします。私も在任中はそうした多くの決定を下す責任を担っていました。ただ、民主主義社会においては中央銀行を万能の機関だと誤解している人々もいますが、それは間違った考えです。中央銀行は社会の中に存在しており、一般国民から十分な支持を得る必要のある機関です。中央銀行は社会に影響を及ぼす多くの決定をします。だからこそ一般国民に信用されなければなりません。つまり、「中央銀行は時に不愉快な決定をするけれども、この機関は長期的な安定に対して責任を果たしているのだ」という信頼を得る必要があるのです。現在のグローバル化の流れを考えれば、大国の中央銀行の取る措置が世界の他の地域に影響を及ぼすことは確かですが、より重要なのは各国中央銀行の決定がもたらす複合効果です。各国中央銀行には自国の安定を確保するという責務がありますが、彼らが下す決定はすべて世界に影響を及ぼします。いわゆる「波及効果」をどうやって取り込むかはとても難しい問題ですが、世界的な最善策を見出すには、少なくとも各中央銀行の間で率直な意見交換を行うことが必須条件です。



6. 現在の動向やご自身の経験から、学生は将来に備えどのような知識を身につけるべきだと思いますか?


これもまた難しい質問ですね!(笑!)
2つあると思います。1つめは「知る方法を知ること」です。知識を得ることは重要ですが、より大切なのは知る方法を知ることです!問題を特定すること、そしてそれに対応する方法を知ることが肝心です。2つめは知識欲です。人は知識を得れば得るほど謙虚になるものです。これはとても重要なことだと思います。なぜならこの謙虚さがあるからこそ、人はさらに知識を得ようと努力し、それがより良い決断につながるからです。例えば、日本のバブル経済崩壊後、私たちは海外の学者や政策決定者から大いに批判されました。しかし今、先進諸国は当時の日本とほぼ同じことを経験しています。このことは、他者に共感し、他者の問題を自分のものとして捉えることがいかに難しいかを示しています。ですから「知る方法を知ること」と知識欲は、大きな問題の解決策を見出す上で非常に重要です。


7. APU学生への実践的なアドバイスをお願いします。


「スマートフォンに時間を使いすぎないように」。
1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・A・サイモンは、コンピュータ化の未来についてこう語っています―「a wealth of information creates a poverty of attention (情報が豊かになれば注意力が乏しくなる)」。確かにITの進歩は私たちに有益な情報を大量に与えてくれますが、そうした情報を消化するために貴重な時間が奪われていることを忘れてはなりません。短期的な問題に注意を払いすぎず、長期的な問題について考えることにより多くの時間を割くべきです。これが私からAPU学生への実践的なアドバイスです。



「偶然の前総裁」を自認する白川氏は、その膨大な知識と謙虚な言葉でSPAに強い印象を残しました。SPAは、白川氏がおっしゃっていた将来世代の育成という新たなお仕事の成功をお祈りするとともに、同氏を再びAPUにお迎えできることを期待しています。


関連リンク:日本銀行前総裁白川方明氏がAPUで講演 (APU公式サイト)


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