学長ノート

東京 インスピレーショントーク

2016/03/10

今村 正治 元副学長

先日、東京での出版記念のイベントにゲストとして招かれました。中曽根陽子さんという方が書かれた本で、ご自身の海外での体験から日本の受験偏重の教育に対して強烈な危機感を覚え、帰国後マザークエストという団体をつくり、学び行動するお母さんをどんどん増やしておられます。
イベントは、小学生や中学生のお子さんをお持ちのお母さんを主な対象にしたもので、僕はインスピレーショントークに加えていただきました。メンバーは、中曽根さん、僕、そして開成中学・高校の柳沢幸雄校長です。
国際学生のみなさんはピンと来ないかもしれませんが、受験偏重の日本において名門高校かどうかは、東京大学にどれだけたくさんの生徒を合格させたかで、決まると言っても過言ではありません。(もちろん必ずしもそれがいいことだとは思いませんが。)開成中高はまさに、東大合格では日本トップクラスの私立伝統校です。柳沢校長は、「東大には生徒全体の半分しか入学していないよ」とおっしゃいますが・・・、これは大変なことなんですよ。
超名門中高一貫校の開成と、なんというかAPUという異色の組み合わせ、さあて、どんなことになるんだろうかと思っていましたが、意外や意外、これがとても面白いトークになったのでした。

開成中高ならば、さぞや中学から6年間、ガリ勉クンが、東大合格めざしてまっしぐら、来る日も来る日も勉強ばかりと思いきや、全然違うのでした。

「受験準備は、そ〜ですね〜、入試の10ヶ月前でしょうかね〜」(柳沢)
「えっ?」(今村)

そうなんです。開成中高は、実に自由なんです(もちろんとんでもなく優秀な生徒が集まっているんですがね)。生徒はのびのびと、部活や運動会、文化祭に取り組んでいる。好奇心と「生活力」を育てることにおおきなウエイトが置かれているのです。

「なにも学校側が生徒に、東大に行け、行けと誘導しているわけではありませんよ。進路は生徒に任せています。結果として東大が多いわけですが、他大学に進学したり、それこそ、花火職人になったり、ダンサーになったりする生徒もいますよ」(柳沢)
「花火職人・・・・ダンサー・・・・」(今村)

東大などの国内の有力大学への進学、つまりこれまでの日本型エリートの養成に重きを置いておられるわけではないんですね。柳沢校長自身、開成・東大の卒業生であり、工学系の教授として、東大やハーバード大学で教鞭をとっておられました。様々な経験を通し、とらわれのない大きなスケールで、グローバル化をはじめ、大きな時代の変化をしっかりみすえておられる。

「グローバル化というのは、国際化と理解されることが多いですが、私は、「広域化」という解釈が一番しっくりくるのです」(柳沢)

なるほど、国境とかということではなく、日本全体も含めて、世界のつながりが広がっていく感じですね。確かに。
僕は、APUの特質として、「混ざる」という言葉をキイワードにAPUについての説明を行ないました。国際学生と国内学生、学生と教職員、大学と街、大学と企業・・・、多様であるといっているだけではなく、多様な環境、異質なもの同士が「混ざる」ことにより、新しいエネルギーと価値を生み出す、それがAPUだと。このことを他の言い方で表現すれば、APUというコミュニティーは、地元生、自宅生が極めて少ない、「よそ者」の集まり、まさにみんなにとって「AWAY」の環境、それがいいのだと。

そうすると、柳沢校長が言いました。
「そう!お母さんたち!たとえ自宅から通える東京の大学に子供さんを行かせるにしても、家からは出してください。4畳半の間借りでもいいから」

自由とグローバル ― 開成もAPUも、同じ方向を向いてるんだよ。

※『成功したいなら「失敗力」を育てなさい』中曽根陽子(晶文社)



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