学長ノート

「はじめの一歩」

2014/07/11

今村 正治 元副学長

仕事柄、飛行機での移動が多いのです。大分から大阪までだと50~70人乗りのかわいいのに乗ることがあります。そんなときは、ちっちゃいな、大丈夫かなとか思わず、自分所有の飛行機だと考えるといい気分です。「ひとりで乗るのはもったいないので、みなさんにもお使いいただいているのです、乗客のみなさん、さあ、どうぞ、どうぞ」という感覚でね。気の持ちようでなんだかゆったり余裕気分になるから不思議です。試しに、一度やってみてください。ただし決して口にはださないことです。この考え方、糸井重里さんの受け売りなんですけどね。

そんなアホなことを思いつつ、機内の座席からぼんやり雲を見つめていて、そういえば、どうして飛行機が飛ぶのかは実はまだわかっていなくて、今でも仮説の段階なのだということを書いた本があったなと思い出したのです。 仮説をたてるということは、つまり常識を疑い、良識を名乗る偏見に抵抗し、試行錯誤を繰り返しながら、新しい構想をうちたて、未知の世界をデザインすることです。みなさんのプレゼンや論文は、仮説だらけのはずです。でも、どうせなら仮説はなるだけスリリングでインパクトのあるものがよいと思うのです。たいていの人に簡単に受け入れられる仮説はたかがしれている、すぐに賞味期限が来ます。自分でもちょっとどうかなという仮説をさっさと引っ込めないでジタバタ粘ってみる、友人の仮説に対しても批判を浴びせるのではなく面白がってあげることも大事です。他人の批判ばかりしてると自分の失敗が怖くなってしまうよ。まあ、APU開学構想にしたって、とんでもない巨大な仮説だったのですから。

「創造はひとりの孤独な熱狂から生まれる」、僕はこの言葉が好きです。みなさんは、「おいおい、これはもしかしたら画期的なアイディアかもしれないぞ」と一人で夢中になって考えをめぐらした経験はありませんか。そっからひとりふたりと賛同者を増やしていく。これが楽しいのですね。やがて仮説から、具体的な一歩がうまれる。 知的な現場にいる我々としては、やみくもに手あたり次第動き出すのではなく、考えに考えて、仮説をたてて、構想を練り、そして自分からまず一歩を踏み出すようにしたいものです。

というわけで、最近、はじめの一歩を踏み出したAPUの学生たちに出会いました。 TEDxAPUと沖縄ウイーク。TEDはスピーカーの一人としてスタッフのみなさんの凄い活躍ぶりを目の当たりにしました。沖縄ウイークはホールの隅っこでグランドショーを見ました。伝統ある他のウイークのように、絢爛豪華・超絶技巧ではなく、素朴なステージでしたが、薩摩藩の琉球支配や第2次世界大戦の沖縄戦など、あえて歴史の悲劇に挑んだ熱演でした。結びつき、助け合いを大切にする沖縄のユイマールの心、ちゃんと伝わりましたよ。

*『99.9%は仮説 思い込みで判断しないための考え方』竹内薫(光文社新書)



  • LINEで送る

PAGETOP